眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-11-

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「ミリュナンテに入る手続きが終わったぞ。」黄龍の当主ロベルトにそう言われ

ファル・ジーク・ジャンはすぐに龍に変身して

黄龍の国アイールから桜龍の国チェルダニアに入り、そこで馬を借り

ミリュナンテに向った。

ミリュナンテは、城壁のようなものに囲まれた都市でミリュナンテに入ってからも

桜龍の当主がいるセントミリュナンテという総本山に入るまで何個もの門を抜けなければ

ならない。



早朝にミリュナンテ入りした3人だが、セントミリュナンテの門にたどりついたのは

夕方になってからだった。

フェルに作ってもらった許可証を見せ、ボディーチェックも終わり3人はようやくセントミリュナンテに入った。

セントミリュナンテ自体も、神殿・修道院・学院そして、神官の居住区が繋がっている巨大な建物で

3人は神殿の方に歩いて行った。



ファルが代表してそこにいた神官に桜龍の当主に会いたいことを伝えると、

当主は修行があと1週間残っているので、その後だったらよいと言われ

ファルが名前を伝えると、神官は近くにいた若い神官に何かを伝えた。



少しすると、学院の方から白いマントをまとった蒼龍が出てきて言った。

「ケイ様の銀の龍の方達ですね。お待ちしておりました。

 こちらへどうぞ。」

そう言いながら学院の方へ案内した。

3人は慧がでてこないことに不安を覚えながらその蒼龍の後に続いて行った。

案内されたのは、学院の学院長室でそこには

聖職者らしい柔和な表情を浮かべた男が3人を迎えた。

ジャンが心配そうに顔を曇らせて言った。

「ケイに何かがあったのですか?」

蒼龍と学院長は困ったような顔をして3人に座るようにソファーをすすめた。

3人が座ると学院長は静かに話し始めた。

「金の龍の龍人。ケイ様は確かに聖獣と一緒にここの敷地に降りられました。

 その時、治療を担当したのが、ここにいる校医のゲオルグ・ソーリュです。」

ゲオルグが口を開いた。

「ケイ様は、落下の衝撃で木をなぎ倒しその木で瞼をざっくり切りました。

 目の方に影響があるかどうかはまだわかりません。

 その他に肋骨と足も骨折しておりました。」

「あの子に蒼の魔法は使えないので普通に治療なさったのですね。」

「ええ。ファル様、ケイ様は意識を取り戻し静養なさっておられました。」

「その体で・・・あの・・・蒼の秘法を・・・

 と・・言うことは魔力が暴走をしたのですね。」

ファルは、真っ青な顔をしながら言った。




「ええ。そうです。ケイ様は魔力が暴走しているのを

 無意識に自分の体で抑えておられました。

 当然、魔力はケイ様の体を蝕みました。

 その状態のケイ様には治療のすべが正直ありませんでした。」

「じゃあ・・・ケイは?でも我々に影響がないのは変だが・・・。」

ジークが呟くよう言うと学院長は頷いて言った。

「ゲオルグ先生は仮説を1つだけたてました。

 魔力が暴走しているのだから魔力を放出させればいいと。」

「馬鹿な・・ケイの魔力の大きさは尋常じゃないのですよ。」

「ええ。そうでしょうとも。ファルム様。

 しかし、ミリュナンテには強い魔力でも抑えると言われる場所があります。」

「そんな場所があるのですか?なら・・ケイはそこに?」ジャンがそう言うと

目の前の2人は視線を落として言った。



「しかし、そこの場所は聖なる場所なのでそこで修行をすることを許された神官しか

 入ることができないのです。」

「じゃあ、何らかの方法でケイはそこに入り、どうなっているかは知らないと言う事ですか?」

「そうです。慧を連れてそこの修行に行ったのはニコライ・ルー・サーリュという

 当主の7番目のご子息で当学院の教師です。

 その修行には1つだけのものを持っていくことが許され、ニコライはそれをケイ様にしたのです。」

「ちょ・・・ちょっと待ってください。その修行というのはどんな修行なのですか?」

ジャンが慌てて言った。



「桜龍の一番の難行と言われております。

 修行者はただ1つのものを持って神になられた方々の石室に入り

 悟りを開きます。」

「ケイがそこに入ったのはいつですか?」

学院長はジークの方を見て言った。

「ニコライが修行に入って今日で20日目です。

 いまだに修行を続けているようで、扉が開きません。

 そして、彼らは何も口にしていないはずです。」

「私達が来たのだから、助け出すわけにはいかないのですか?」



学院長は首を振って静かに言った。

「無理です。あの修行に入ると扉が開かなくなってしまうのです。

 私達にできるのは祈ることだけです。」




「ここまで来ても待つしかないのかよ。」ジャンの悲しい呟きがせつなく響いた。



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