眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-12-

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ファルとジークとジャンは学院の宿泊施設に泊まることになり

校医のゲオルグが部屋に案内してくれることになった。

4人は石の長い廊下を歩いていると美しい歌声が聞こえた。

「あの、歌声は?」ファルが校医に聞いた。

「あれは、ルイです。

 ケイ様は彼の耳を治すためにあの術を使ったのです。

 ルイは、元々勉強にも礼拝にも熱心ではなかったのですが

 ケイ様が耳を治してからはずっと聖堂で歌を歌い、

 回復を祈っております。」

「そうですか?それでは、私達も聖堂に案内してもらえませんか?」

ファルがそう言ったので、ゲオルグは聖堂の方へ足を向けた。




聖堂の扉を開くとそこは木の長椅子が何個もあり

先には、金色の龍の像があった。

横の窓はすべてがステンドグラスで、歴代の金の龍と妃の姿が描かれている。

木の長椅子の一番前の椅子には華奢な男の子が座っていた。



慧よりは年上だろうが、まだ12歳から15歳くらいの男の子だ。

髪は薄い紫色で紫龍のようである。

誰かが入って来たことにも気づかずに歌を歌っている。

その声は、少年らしい高めの声でとても美しく聞いている人の心を穏やかな気分にさせる。




ファルはルイが歌い終わると声をかけた。

「素晴らしい歌だね。ケイの為に歌ってくれているのかい?」

ルイは、驚いたように4人を見あげて言った。

「僕のできることは歌うことと祈ることしかないんだ。

 僕の為に、ケイも・・ニコライ先生も・・。」

ルイはそう言いながら涙をこぼした。

「坊主、泣くな。ケイなら大丈夫さ。」ジャンはそう言いながらルイの頭を撫でた。




「我も祈ることしかできぬならそうする。」

ジークは、そう言いながらルイの横に跪き片手をもう片方の肩に当て目を閉じる。

ファルとジャンも跪き同様にした。

「ルイ、歌って下さい。私達の声はケイに届くはずです。」

聖堂にルイの歌声が響いた。




不思議なことにその歌声は学院中を包んだ。

ニコライが教えていた生徒は口々に言った。

「私達もニコライ先生のために祈らなきゃ。」

数分後、聖堂は祈りを捧げる生徒でいっぱいになり、歌を歌える生徒は

ルイと歌を歌った。その声は神殿にも届いた。

神殿の神官は、その声を聞くと「我々も・・。」と呟き神殿の大聖堂に集まった。

セントミリュナンテ全てが祈りに包まれた。




慧は、ご飯を食べているときにふと箸を止めた。

「どうした?」貴雅が心配そうに言った。

「声が聞こえる。」慧はそう言いながらリュートを見つめた。

「どんな声が聞こえる?」リュートは微笑みながら言った。

「私を呼ぶ声・・・。」慧は目を閉じる。




その時、外にいたニコライが部屋に入ってきた。

「声が聞こえます。これは・・・?」

慧の頬を涙が濡らした。

「ファル・ジーク・ジャンの声も聞こえる。ルイも歌っている。」

「私には・・教え子の声が聞こえます。ああ、体の中があたたかい。」

ニコライの体をピンク色の光が包んだ。慧は驚いたようにニコライを見つめた。



「修行の成果が現れてきたようだな。」リュークが言うと貴雅も頷いた。

「桜龍はね。慈愛と植物の龍なんだ。だから、龍になるには無になって

 人の心のあたたかさを感じなければならない。今、ニコライは

 自分を思って祈ってくれる人のあたたかさを感じたんだ。」

「じゃあ、ニコライの修行はもう少しで終わり?」



慧が言うとリュートが頷いた。

慧は、箸を置いてリュートに抱きついた。ニコライの修行が終わることは

リュートと貴雅との別れを意味しているからだ。

貴雅は、後ろから慧の頭を撫でた。

「慧、君は優しい子だね。

 でも、君は僕らの為に泣かないでほしい。」

「なんで?」慧は頭をあげて言った。

「僕らは過去の想念だ。君は君の大切だと思う人のために泣いてほしい。」

「そんな。いやだよ。・・リュートとタカのこと忘れない。」

「ケイ・・その気持ちだけで、ずっと待っていた甲斐があったというものだよ。」

リュートもそう言いながら慧の頭をそっと自分の方に抱き寄せて言った。





「私の全ての祝福を君に・・・そして、今世の龍王こそ私の真の跡継ぎに。」







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