眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-13-

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「ねえ、ニコライ。お願いがあるんだけど。」

慧がニコライを見あげながら言った。

「何ですか?」ニコライは慧を見下ろして言った。

「あのね。リュートとタカにお礼したいの。

 それで、ここは想念の世界でしょう?

 私が持っているイメージ具象化できないかなあ?」




ニコライはしばらく考えて言った。

「そうですね。そのイメージを私に見せてもらえれば

 形にすることできますがね。」

「どうすれば、私のイメージ読み取ってもらえるかなあ。」

慧はそう言いながら考え込んだ。

ニコライは、「失礼します。」と慧を抱き寄せ目を閉じた。

慧の意識と自分の意識を合わせる。

「強くイメージしてください。」ニコライがそう囁いた。




慧はイメージした。

龍星が連れて行ってくれたいつかの公園を。

桜の木がたくさん並んでいて、少し花びらが散っている。

太陽の光はキラキラしていて薄紅色の花びらが白くみえる。

途中、後ろに立っているニコライの腕の気配が無くなったが

慧はあの公園を鮮明にイメージしていた。




「ケイ様・・・目を開けて・・・ください。」

そんな声が遠くでした。

慧はそっと目を開けた。

「うわぁ・・。」

そこは、あの公園そのものだった。

桜の花が何本もあり、ご丁寧にもその木1本1本に小さな木の名前の札もついている。

「ニコライ、すごいよ。」

慧はニコライの方を振り向いて驚いた。

そこには桜の花と同じ薄紅色の美しい龍が浮かんでいた。




向こうから、リュートと貴雅が走ってきた。

2人は一角が桜の花で埋め尽くされているのを眩しそうにみて

龍の姿になったニコライをみあげた。

「ニコライ・・すごいよ。久しぶりにこんなにすごい桜をみたよ。ありがとう。」

貴雅がそう言って礼をした。

「タカは、イメージが鮮明でないからね・・・きっとこんなに見事な桜は

 異世界から来たぶりなのだよ。」

リュートは静かにそう言った。




慧は2人をみあげて言った。

「お別れ・・・なの?」

2人は優しく微笑んで頷いた。慧の目から涙がポロポロ流れた。

リュートは慧を抱きしめて言った。

「君の力を返そう。そして、新たなる力を。

 ナバラーンを頼んだ。」

すると、慧の体が金色に光る。

「リュ・・・ト・・・うそ・・・ねむ・・・い・・・よ・・・

 ちゃ・・・んと・・・さ・・・よなら・・・言いたいの・・・に

 ・・・タカ・・・・。」




慧は眠くなりそうになりながらも貴雅に手を差し伸べる。

貴雅は豪華な懐刀を慧の手に握らせた。

「慧・・これは、私の大切な刀。そして、私の戴いた力。

 私の力も君に・・・。」

そう言いながらにっこりと微笑む。

「タカ・・・いや・・・・」

慧はそう言いながらリュートの腕の中に崩れ落ちた。

リュートは慧をニコライの背にそっとのせて言った。

「ニコライ、ケイを頼んだ。」

「はい・・・。リュート様。タカマサ様。」





ニコライはそう言って頭を垂れるとそのまま飛びあがった。

上を1回旋回するとニコライの姿は青空に溶けていった。

「行っちゃったね。」貴雅が頭をこてっとリュートの肩に乗せた。

「ああ。でもこれで、ナバラーンは大丈夫だろう。」リュートは貴雅の頭を撫でながら言った。

「しかし、慧は凄いね。こんなに凄い桜見たことないよ。」

「ニコライも銀の龍になる覚悟を決めたのだな。」

「うん。そうだね。きっとニコライなら立派な銀の龍になるよ。」

2人は、ニコライが龍になる前に桜の花びらが石に変わり

慧とニコライの体に吸い寄せられて消えたのを見たのだった。





「あっ。」

突然リュートが言った。

「どうしたの?」

「慧に言ってなかったことがあった。」

「何?」

「体のことを言ってなかった。後、渡した力のこと。」

「まあ、仕方ないよね。それにわかると思うんだ。俺もあの刀の使い方教えてないし・・・。」

貴雅が背伸びをしながら言った。

「リュート戻ろうか。そしてあちらで待とうよ。」

「ああ。そうだな。」

リュートがそう言いながら貴雅の唇を吸う。

貴雅も嬉しそうにリュートの首にすがりつく。

すると、2人の姿がそこから消え冷たい石の部屋が現れた。





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