眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-14-

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ファルとジークとジャンは、今日も聖堂にいた。

ミリュナンテに来て3日目になる。

通常、桜龍の修行でも2週間が最長だそうで

今日も動かない扉に色々な憶測が飛んでいる。



しかし、3人は慧が生きていることは確信していた。

それは、不完全でも慧に銀の龍として誓約をたてているので

慧に何かあったときは絶対わかるはずだと思っていたからだ。

「ケイ・・そろそろ・・・帰ってこないと、あの子も可哀そうだ。」

今日も素晴らしい声で歌い続けているルイをみてジャンが呟いた。

ファルが強制的にルイを休ませ、蒼の魔法で癒している。

それでもルイは、歌をやめようとしなかった。


その時、急にセントミリュナンテの鐘楼の鐘が一斉に鳴り出した。

ジークのそばで座っていたフィリオが立ちあがって

外に駆けていった。

その時神官が聖堂に入ってきた。

「鐘が鳴りました。たぶん桜龍の修行がおわったのでしょう。

 ニコライ様が桜龍になったのなら、鐘楼から直接龍の形で

 現れるはずです。」

鐘楼の鐘はさっきよりも大きく鳴りはじめた。

皆が外に出ると、急に鐘の音がピタリと止まった。

それと同時に桜色の美しい龍が空に舞いあがった。

龍はミリュナンテの空を旋回した。

すると、あの想念の世界と同じようにたくさんの桜の木が現れ

美しい花をつけはじめた。

「おお〜〜〜。」周りがどよめいた。

龍は、皆が立っていた広場のような場所に降り人型を取った。

腕にはぐったりした慧を抱えている。




ニコライは、立ち尽くしている神官の前に歩み寄り

「修行を終えました。」と礼をすると神官達は黙って頭を下げた。

ニコライは、自分の足が想念の世界にいた時よりもほっそりしているのに気がついた。

腕の中の慧も目に包帯を巻き病室を出たままの状態だ。




ファルとジークとジャンは「「「ケイ」」」と言いながらそばに駆け寄った。

ファルが慧を抱きあげると、ジークがふらついたニコライの肩を支えた。

ファルは、ニコライの方を見てジャンに慧を渡すと、蒼の魔法を使う。

それと同時にニコライはジークの腕の中に崩れるように倒れた。

駆け寄ってくる神官達にファルはにこやかに言った。

「この方もかなりお疲れの様子です。私が責任を持って治療いたしますので・・。」

そう言っているうちにジークとジャンは、校医のゲオルグと一緒に慧が使っていた

病室の方に向かっていた。




ゲオルグは、病室につくと急いで部屋にベッドをもう1台用意した。

「こんなに細くなって・・・。」ジャンは慧をベッドに寝かせながらそう呟いた。

ジークもニコライをベッドに寝かせ慧の枕元により

慧の髪を優しく撫でて言った。

「ケイ・・・我がこの怪我を変われるなら・・・。」

フィリオも「クーン」と鳴きながら慧の顔を舐めた。




ファルが入ってきて、慧の枕元に来て額に手を翳して言った。

一気に蒼の魔法で癒そうと思ったのだ。

「まさか・・・・そんな・・・。」

ファルは思わずそう呟き、驚いたように両手で口を覆った。

「どうした?ファル・・。」ジークが不思議そうにファルを見あげて言った。

「ケイの金の龍の力が増しています。以前だけでもかなりな魔力でしたが・・・

 比べようもなくあがっております。

 私・・・1人ではとてもその魔力を取りいれることはできない。

 幸いにも魔力の暴走は止まっていますが、小さな癒しの術しか使えません。」

ジークが「銀の龍のことを教えないことが裏目に出たな・・。」と言った。



「とにかく、ケイを少しずつ治しましょう。取りあえず、今の状況を知らなければ。

 その前に、この桜龍の方にも術を・・・。

 この魔力の強さについて何か知っているとよろしいのですが・・・。」

そう言いながら、低く呪文を詠唱し、ニコライに蒼の魔術をかけた。



それから、慧の目の包帯をとく。

途中から白い包帯に血がつきはじめた。

包帯はとても長かったのでジークがファルを手伝う。

ジャンは血のついた包帯に顔を顰めた。

包帯を取ったファルは、慧の顔を見て驚いて固まった。

ジークとジャンも驚いた顔をして慧の顔を見続けていた。





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