眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-15-

本文へジャンプ




「傷が無い・・・。こんなに出血していたのに。」

ファルは驚いて言った。

そのまま、慧の服を脱がせ触診をする。

「骨も繋がっていますが、こちらは完全ではないようですね。

 しばらくは歩くこともできないでしょう。

 それにしばらく絶食状態だったので栄養が行き届いておりませんね。

 こんなに痩せて・・・。」

ファルの目から涙が零れた。

「とにかく、生きていて良かった。そう言えば、ケイこんな刀持ってたかな?」

ジャンは慧が握り締めている小刀に目をやって言った。

「随分変わった刀身だな。」ジークが不思議そうに言った。

ジャンがその刀をサイドテーブルに置こうと慧の手から取ろうとしたが

刀が重くて持ちあがらない。

「う・・・そだろ?」

ジークとファルも手伝っても刀はびくともしなかった。

「不思議ですね・・・。」ファルがそう呟いた。





ニコライは、人の小さな話し声に目を覚ました。

「お目覚めですか?」

柔らかな声が聞こえた。ニコライが目を開けると

優しそうな蒼い髪の男が見下ろしていた。

ニコライは、周りを見回して、隣のベッドに寝かされているケイに気がついて

起きあがり、そばに行った。

「大丈夫です・・・疲れて眠っているだけです。」

ファルがそう声をかけるとニコライは安心したように息を吐き出して言った。

「ケイ様の銀の龍の方ですね。

 私は、ニコライ・ルー・サーリュと申します。」

ファル・ジーク・ジャンも自己紹介するとニコライは立ちあがって言った。

「私は神官としての報告がありますし、少し頭を整理したいと思います。

 なので、夕食まで時間を貰えないでしょうか?」

ファルはニコライの顔を見て言った。

「わかりました。」

ニコライは礼をすると部屋を後にした。

「良かったのかよ?」ジャンが言う。

「ええ。仕方ないですね。あの方はケイを助けてくださった方。

 悪いようにはなさらないでしょう。

 日も高いですから夕方まではすぐですし・・・。」

「そうだな。確かに心の整理は必要であろう。

 話によると、今回の修行を遂げたことで神官としての地位もあがるそうだからな。」

ジークも言った。




ニコライが廊下に出ると、ルイがニコライに駆け寄ってきて、そのまま、抱きついた。

ニコライは驚いて目を見開いたが悟られないように冷静な口調で言った。

「ルイ・シーリュ。どうしました?」

ルイは、「先生。ごめんなさい・・・。ごめんなさい・・・。」と泣いていた。

「ルイ、何を謝っているのです。」ニコライは屈んでルイに目線を合わせながら言った。

「僕が悪いの。僕のせいで・・ケイがあんなになって・・・。」

ニコライは首を振って言った。

「ルイ。君のせいではない。君が泣いているとケイ様は悲しがるだろう。

 ルイ・シーリュ。私は少し思い違いをしていたのかもしれません。

 後で君の話を聞きたい。そして、今はベッドに戻ってケイ様が良くなったら

 素敵な歌を聞かせてください。」

ルイはニコライの頬に小さくキスをして「ありがとう。先生。」と小声で言うと

自分の部屋の方に歩いていった。

ニコライは、穏やかな顔でルイを見送った。

そして、神殿の方へ静かに歩きはじめた。




「ケイ・・・。」ファルは慧の体を水に濡らしたタオルでぬぐった。

ジークとジャンも慧のそばを離れない。

その時、ノックの音が聞こえ、真っ白な神官服をまとったニコライと

似たような面立ちの男が入ってきた。

「こちらが・・・。」穏やかな面持ちの男が慧のそばに立ち、そのまま慧を抱きかかえた。

「随分、軽い・・・。」男はそう言いながら優しく慧の髪を撫でた。

その眼差しはとても優しく慈愛に満ちていた。




  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.