「け・・・い・・・慧・・・起きなさい。」
顔をピタピタと叩く感覚に慧は目を覚ました。
慧はじっと大好きな人の目を見る。
「あっ・・・リューゼ。俺、夢見てたのかなあ。」
「慧・・・ちょっと見ないうちにやつれた。
すまない。そばにいてやれなくて。」
リューゼは悲しそうな顔をして言った。
「リューゼ、そんな顔をしないで。
もし、15年もリューゼにまったく会えないなら
俺・・すごく辛いと思うけど、でもこうして会える。
だから、一緒にいる時は微笑んでいて。」
リューゼは頷くと微笑みながら慧を膝に抱きかかえた。
「う〜〜〜ん。リューゼ。恋人として膝の上だっこは寂しいよね。」
慧はそうおどけて言いながらリューゼの頬を撫でた。
「確かに・・・でもここの世界では慧を抱くことはできないんだ。
だから慧が小さくてありがたい。それよりも慧、痩せすぎだ。
何があった?」
リューゼは慧の額にキスをしながら言った。
慧は人の自治区の話から紅龍に襲われたこと、ミリュナンテに落ちて怪我をしたこと
石室に行って、リュートと貴雅に会ったことを話した。
「始祖様と妃に会ったって?」
リューゼも驚いた調子で言った。
慧は帰るときに不思議な力をもらい、そのために眠くなったとリューゼに説明した。
リューゼは、慧を抱えあげて自分の額に慧の額をつけて目を閉じた。
「これなら、眠くなるのも仕方がない。
君は、とんでもなく大きな力をもらったんだ。
それを制御するものをもらわなかったかい?」
慧はきょとんとしてリューゼを見あげて慌てて言った。
「そう言えば、タカに懐刀をもらった。ほら。」
慧はそう言いながら刀をリューゼに差し出した。
「さあ、イメージして。自分の体の中の光りがこの刀に移るイメージだよ。」
リューゼはそう言いながら慧をすっぽりと後ろから抱え込んだ。
慧が言われたとおりイメージすると、金色の光で刀が光った。
リューゼは、慧を抱えなおして自分の方に向かせると優しく言った。
「慧。そろそろ、君は自分の存在価値を認識したほうがよい。
いままでの慧の行動は、それは素晴らしい。
しかし、君の存在は私にとってもナバラーンにとっても貴重だ。」
「リューゼ・・それは、リュートにも言われたよ。
金の龍人は長いナバラーンの歴史でも俺1人だって。」
「慧にはいつも君を気にかけている人。
いや、君の為なら命をかけてもよいと
思う人が私の他にもいるのだよ。」
「そんないやだ。俺の為に命をかけるなんて。」
慧はブンブン首を振って言った。
「慧、君は1人でナバラーンをどうかしたいのかい?
それは、違う。いろいろな人の支えをなく国は
維持できない。私も慧と同じ立場だ。
私の為に命をかけてくれる絶対的な存在がいる。」
「もしかして・・それは、リュークやフェルやロベルト?」
慧が見あげて言うとリューゼは頷いて言った。
「そうだな。そして、同時に彼らにも命を捧げて良いと思うほど
信頼している存在がある。つまり、私はその全ての命に
責任がある。」
「でも・・・それはリューゼが龍王だから・・・。」
「いや、慧にも縁を繋げた者がいる。
慧、窮屈に思えるかもしれない。
しかし受け入れる覚悟をしなければならないよ。」
「でも、その人達は俺の為に命を懸けてくれるのでしょう?
そんな簡単に頷けるわけがないよ。」
「慧、君が暮らしてきた異世界の国は平和で守られた場所だ。
しかし、ここはナバラーン。そして、君は金の龍人で
多くの力を持つ。
いいかい?君はその気になったら街の1つや2つ壊滅させるくらいの力、
逆に使うと島の1つくらい作れる力を持っているんだ。
そこに取り入ろうとしたり、狙ったりするものはこれから増えるはずだ。
だから、絶対的な味方が必要だ。」
「リューゼ・・そう言っても・・・俺には命をかけるって言葉が重いよ。」
「私は、こう考えているよ。
私に命を賭けてくれる者を私も護ろう。
そして、私も強くなりたいと。
慧、何も言わなくてもそういう存在が側にいるのだよ。
それを拒絶することは、悲しいことだと私は思う。
ここで、すぐに答えを出さないで良いがちゃんと考えるのだよ。」
リューゼはそう言いながら慧にキスをした。
慧は、難しそうな顔をしてリューゼをみあげて言った。
「わかったよ。リューゼ。考えてみる。
ねぇ・・・リューゼ。いっぱいキスして。」
そう言いながら慧は細い腕をリューゼの首にまわして
キスをねだった。
リューゼは優しく慧の顔にキスを降らす。
「リューゼ・・・もっと・・・もっと。」
慧はそう言いながら自分から舌を絡ませた。
「良かった。ケイの顔色が良くなった。」
ファルは男に抱かれている慧を見てそう呟いた。
慧は嬉しそうに微笑んでいる。
「悔しいけれど、こんなに嬉しそうな顔は寝ている時だけなんだよな。」
ジャンがそう言ってぼやいた。
「こんな形で申し訳ない。私は桜龍の当主。イアン・ラー・サーリュです。
ここ1月修行で篭っていて申し訳ない。」
男は慧を膝に乗せたまま言った。
「改めまして、私は、ニコライ・リー・サーリュです。」
ニコライはそう言いながらお辞儀をした。
ファル・ジーク・ジャンもそれぞれ自己紹介をして、慧のベッドの周りに座ると
ニコライがにこやかに言った。
「私も皆様の仲間にしていただけませんか?」
3人は神官達の口から、ニコライが龍になれるのなら
当主の大司教に継ぐポストが用意されているのを聞いていた。
だから、突然のニコライの言葉に驚いてまじまじとニコライの顔を見つめた。
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