眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-17-

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「あなたが・・銀の龍に・・・?

 と・・いうことは神官を辞めることになりますが・・。」

ファルが驚いたように言った。

「ええ。私達は、石室で初代の龍王様と夜明けの神と出会いました。

 そこで、私は初代龍王様より、ケイ様の銀の龍になるのなら

 銀の龍について伝えたいとおっしゃりました。

 私は、龍王様にこの修行が終わった暁に誓願をたてることを誓い

 銀の龍についていろいろと聞いて参りました。」

「それは、ありがたい。銀の龍には文献が少ないからな。

 神官としての地位を投げ出されるのか?」

ジークが聞いた。

「神官としての未練はございません。父にももう辞する旨の報告をして

 受理されました。後は、ケイ様に誓願をたてるだけです。

 そして、ファルム様、ケイ様は銀の龍について何も知りません。

 このままでは、本当に銀の龍の力がでません。」

「それは、どういうことなのですか?」

「金の龍。龍の当主様達の力は、血による遺伝だそうです。

 しかし、歴代の銀の龍は、金の龍と互角、場合によっては

 金の龍以上の力を持っておられました。

 その鍵は花嫁だそうです。」

「花嫁?」

「ええ。花嫁は、多かれ少なかれナバラーンの地に愛されます。

 その力が魔力です。そして、その魔力は銀の龍も得ることができるそうです。

 花嫁が銀の龍を認めたら、銀の龍に花嫁の魔力が流れてくるそうです。

 そして、望むと銀の龍はいつでも花嫁のそばに行くことができるそうです。」


「そうなのですか?父に聞いても銀の龍のことはわからないことが多くて・・・。」

ファルが言うと慧を抱いたままのイアンが口を開いた。

「それは、仕方のないことだと思う。何しろ我々が生まれたばかりの事件で

 そのことについては、皆が口を閉ざしていたのだ。

 たぶん、龍王様だけが真実を知っているのだろう。」

「なぜ?龍王様だけが・・?」ニコライが聞くとイアンが言った。

「当主と龍王は100年の時を過ごし、眠りの城で眠りにつく。

 目覚めるのは龍王が亡くなってからだ。

 その眠りに着く少し前、今の龍王様が気落ちなさったことがあった。

 恐らく、その時真実を知ったと思う。

 それが何か私達も知らないのだよ。」



その時、イアンの腕の中の慧が悲しそうに言った。

「・・・嫌だよ・・・ああ・・・。」

そう言いながら、涙を流したまま目を開けた。




「おはようございます。ケイ様。」

イアンがそう言いながら微笑み慧の頬の涙をぬぐった。

慧はぼんやりした顔でイアンの顔をみあげて言った。

「ニコライ・・じゃ・・・ないよね。」

そう言いながら周りを見て驚いたように目を見張った。

「ファル・・・ジーク・・・ジャン・・・。」

「ケイ・・・。どこも痛くないですか?」

「目覚めて、良かった。」

「まったく・・・心配かけさせやがって。」

3人とも泣きそうな顔をしていった。


イアンが慧を抱いてベッドに寝かせると、慧は首だけ動かして言った。

「ごめん。心配かけたね。」

ファルが慧の額を撫でて言った。

「今は、休むことです。ほら眠りなさい。」

そう言いながら、蒼の魔法を使うと慧は小さな寝息をたてはじめた。

「さて、私は仕事をこなしますね。」

イアンはそう言いながら立ちあがり、出て行った。



慧が目覚めると4人の話し声が聞こえた。

慧のベッドを囲むように和やかに話をしている。

蒼龍らしい知的な口調のファル、寡黙で必要なことだけ口を挟むジーク、

話好きで時々冗談を織り交ぜるジャン、論理的で丁寧な口調のニコライ、

皆が微笑んでいる。

4人は慧が起きたことに気がついて慧に目を向けた。

「「「「ケイ(様)、大丈夫?(ですか?)(か?)(かな?)」」」」

皆が同じことを心配してくれることに幸せを感じる。

「うん・・・ありがとう。」

慧は微笑みながら礼を言った。



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