眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-18-

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「ケイ様、少しよろしいですか?」

「ニコライ?どうしたの?」

慧はベッドに座りながら、微笑んで言った。

怪我の方は良くなっていた慧だが、絶食状態での体力の低下は

いちじるしく、少しずつリハビリする必要があった。

胃も小さくなっていたので、1日に何度か栄養もとる必要があり

慧自身、自分の体力のなさに愕然として

ついつい無理をして寝込んでしまうこともあった。



「今日は、大丈夫でしたか?」

ニコライは、ベッドの側の椅子に座りながら言った。

いつもいるファル・ジーク・ジャンもニコライがこれから話す内容を察して病室にいない。

「うん。今日はジャンと散歩に行ったんだけど

 すごく、過保護なんだよ。ちょっと石につまずいただけでも

 心配してくれて。まあ、私が心配かけたから悪いんだけどね。」

慧は肩をすくめて言った。




「ケイ様。大切なお話があります。」

ニコライはそう言いながら跪いた。

「ニコライどうしたの。立ちあがってよ。」慧は驚いたように言う。

「いいえ。ケイ様。ケイ様はこのナバラーンで唯一の龍の花嫁になるお方です。

 そして、私は桜龍としてケイ様のお側にいたいと願っております。」

「えーーっ。ニコライ。それは、どういうこと?」

「龍の花嫁には、銀の龍と呼ばれる者が側にいるべきなのです。

 銀の龍に取っての唯一は、龍王ではなく龍の花嫁。

 私は、ケイ様のそばでずっとお仕えしたいと思います。

 これから、その誓願をたてるので、了承していただきたいのです。」

「誓願?それは、どういう意味?」




「私の全てをケイ様の為に。という誓願です。」

「ニコライ・・だって、あの修行を終えると神官としていろいろな仕事ができるのでしょう?

 私の為ということは神官は・・・。」

「もちろん、辞めるということです。」

「何で?そこまでするの?」慧は困惑したように言った。

「私は、ケイ様をお慕い申しあげております。確かにまだまだなところはあるかもしれませんが

 それでも、ケイ様なら龍王とともにこのナバラーンを導いてくれると思います。

 貴方は自分を犠牲にしてもルイを助けようと致しました。

 そんなケイ様に私も教わることがたくさんありました。

 微力ながら、桜龍として貴方の銀の龍にさせて下さい。」

ニコライは、そう言いながら頭を下げた。




慧は、ベッドから静かに降りて言った。

「ニコライ・・・ひとつだけ約束してほしいことがあるんだ。」

「何でしょう?」

「自分自身を大切にしてほしい。」

「自分自身を・・・?」

慧は頷いて言った。

「私の為に自分を犠牲にすることを考えないでほしい。

 それは、綺麗事だと私もわかっている。それでも・・私は・・・

 そう願わずにはいられない。」




「仕えると願った以上、私の全てはケイ様に差しあげます。

 それでも、ケイ様を悲しめることのないように最善を尽くします。

 これで許していただけないでしょうか?」

ニコライが顔をあげて言った。

慧はじっとニコライの目を見つめた。ニコライもその目をじっと見返す。




慧はしばらくするとあきらめたように小さく溜息をついて言った。

「わかったよ。」

ニコライは驚いたように顔をあげて言った。

「ケイ様。許してくださるのですか?」

慧は頷いて言った。

「私は何をすると良いの?」

「私の誓願の後に、銀の龍になることを許すと言ってください。

 それで私とケイ様が繋がります。」

そう言いながら、ニコライは慧を立たせ、改めてその足元に跪いて言った。

「私は、ニコライ・リー・サーリュ。桜龍として、ケイ様に全身全霊をもって

 お仕えし、ケイ様を唯一の主と致します。これにて、私は桜龍としてではなく、

 ケイ様の銀の龍のサーリュとして仕え全てを捧げます。

 これにより私はナバラーンの理から抜け、私に取っての最高は龍王ではなく

 金の龍人である花嫁、ケイ様になることをどうかお許しください。」



慧は、不思議な感覚に包まれた。

体の中からあたたかいものが流れる気がして、言うべき言葉が口から自然と出る。

「許します。ニコライもナバラーンの地に愛されますように。

 伴に在ることを祝福致します。」




ニコライは、自分の足首からアンクレットをはずすと

「これを、ケイ様と私の絆として捧げます。」

と言いながら慧の足首につけると、金色の光りが慧の中から溢れ

ニコライを覆い、あたたかい力がニコライの体に流れ込んだ。





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