眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-7-

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その夜、ニコライは真っ白な神官の服を着て

慧の病室を訪れた。

慧の顔色は悪く高熱がでて苦しそうに喘いでいる。



校医が注射を打ったり手を尽くしているが全然良くならない。

慧の横にはフィリオが心配そうに寄り添っていたが

自分は一緒に行けないのを悟って寂しそうにベッドから降りた。



ニコライは、自分と同じように真っ白な服を着せられ

毛布に包まれた慧を抱きあげ心配そうな校医とフィリオを一瞥すると

部屋を出た。

そこには、数人の神官がおり、彼らはニコライが石室の扉を開けて

中に入るのを見届ける役割がある。

ニコライは神官達の先導で暗い階段をおりた。

階段はとても長かったが皆が静かに下りていく。



ある扉の前に行くと長老と言われている神官が進み出て言った。

「ニコライ・ルー・サーリュ。この修行で持っていくもの1つは決められたか。」

「この少年にございます。この少年が私のただ1つ持っていくものです。」

「よろしい。我々はここで別れる。悟りの道を開くのもよい。

 この道を戻るのもよい。全てはそなたの自由。

 そなたが、この扉を開けるとこの扉はそなたが向こうから

 押さねば開かぬ。行きなさい。貴方に悟りが開かれますように。」




ニコライは頷いて、石の扉を開けた。

石の扉を開けるとそこには、何個もの扉があった。

すると、不思議なことに抱いている慧の体が金色に光り

光が1つの扉を示した。




その扉に手をかけるとその扉は音も無く開いた。

下に続く階段があったが慧の体が金色に光っているので

足元を照らす灯りはいらなかった。

ニコライは慧を落とさないように慎重に階段を下りた。




かなりな時間をかけて階段を下りるとそこには大きな扉があった。

「ここが、石室の扉なのですね。」

ニコライはそう呟きながらその扉に手をかけた。

そこも軽く押すだけで音も無く開いた。

突然、扉の中から風が吹き2人は突風に巻き込まれて

扉の中に吸い込まれた。

ニコライは慧を必死に抱きかかえぎゅっと抱きしめ、

目をつむった。








突然急に暗かった周りが明るくなった。

そして目の前に大きな池があり、

その向こうには、木造の家が見えた。

池にはみたこともない色とりどりの魚が泳いでいる。

振り返ると扉は硬く閉まり、びくとも動かない。




ニコライは腕の中の慧を見て眉をひそめた。

「まずいですね。顔色が悪くなってきました。

 ここで、魔力放出させて大丈夫なのでしょうか?」

ニコライは、とりあえず木造の家に行ってみることにした。

慧をしっかり毛布でくるんで抱えなおすとニコライは

その家の方に足を進めた。




その時、後ろから声がした。

「めっずらしいな。あの扉から現れる人はいないと思っていたよ。

 君、サーリュだよね。普通のサーリュはあの扉開けられないんだよね。」

ニコライが振り向くと黒い髪を紅い組紐で緩やかにまとめた男がにこにこ笑っていた。

「すみません。この子を休めたいのですが・・。」

ニコライが腕の中の慧を見せると男は慧の額に手をあてて言った。

「すごい、熱じゃないか。サンダルを脱いでついて来いよ。」




男は自分の履物もそこに脱ぐと家にずんずん入っていった。

引き戸も何個も開け、奥の部屋にニコライを案内すると

足でその部屋のクローゼットと思われる引き戸を開け、

中に入っていたマットを床に敷き、慧を寝かせるように言った。

ニコライが慧を寝かせると男は慧の上に静かに布団をかけ、

大きな声で言った。

「リュート〜〜お客さんだよ〜〜。」

すると、大きな足音がして引き戸ががらっと開いた。






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