「ルイ、何があったのですか?」
ニコライは、ルイを慧の腕から助け起こしながら聞いた。
「先生・・僕は何も・・。」
校医は慧の脈を取り診断をする。
「ルイ、慧と話したことを素直に言ってください。」
ニコライは目線をルイに合わせて言った。
「先生に言われたとおり、ここに来て僕ミリュナンテに来た時のことを話したんです。」
「ええ。それで?」
ルイとしては、ここに母親に無理やり連れられてきたとは言えない。
なので、そこはとぼけることにしたのだ。
「それで、歌を歌ってと頼まれていつもの歌を歌ったら、
ケイが側に来てほしいと言ったんだ。
それで、側に言ったら「私を見つけてくれたお礼だ。」
と言って魔法を唱え始めたら光が出てきたんだ。」
「本当にそれだけですか?」
ルイはコクリと頷いた。校医はその話を聞いてルイに言った。
「まさか・・・ルイ歌ってくれないかね?」
「僕、下手だよ。」
「いや。構わないから歌ってくれないか。」
校医がそういうので、ルイは目をつぶってさっき慧のために歌った歌を歌い始めた。
時間は少し遡る。
「ケイ!!」
ファルが黄龍の宮殿の一室で声をあげた。
「ケイに何があった?ファル?」
ジークが読んでいた本から顔をあげて言った。
ジャンも不思議そうにファルを見る。
「蒼の秘術を使いました。しかもかなり難しい秘術を・・。」
「蒼の秘術って?」
「蒼龍には、魔術の他に上位龍しか使えない秘術があるのです。
その中でもかなり難しい術をケイは使ったようです。」
「まさか、我を助けてくれた時のように一週間は眠り続けるのか?」
「この秘術は私や父でも1週間はベッドに倒れたままです。
そもそも無謀な術なのですよ。
失われたものを蘇らす術なのですから。」
「そんな術があるのか?」ジャンが驚いたように言った。
「ええ。あります。でも術者にも負担が大きすぎる術です。
あの子は、万全な体調で術を掛けたのなら良いのですが・・・。
ただでさえもケイは膨大な魔力を押さえ込んでいます。
膨大な魔力は完全に体を蝕みますよ。」
ファルが心配そうに言った。
「何とか助かる手はずは無いのか?」
「私が直接出向くとよろしいのですが・・難しいですよね。」
「ケイは大丈夫だよ。無理なことはしないさ。」ジャンが言うとジークとファルが一緒に言った。
「「あの子は無理はしないけど無謀なことはするんだ。(しますよ。)」」
3人は顔を見合わせて溜息をついた。
ルイの口から流れるメロディにニコライと校医は驚いたように顔を見合した。
その歌は、素晴らしいものだった。
元々の声も美しいのだが音程もはずしていない。
歌い終わったルイも驚いたように2人を見つめた。
「素晴らしい歌でした。」ニコライが言うと校医が静かに言った。
「ルイ、この術は大変な術なのだ。だから周りには決して言ってはいけないよ。
もう、部屋にお戻り。」
ルイはコクリとい頷くと慧を心配そうに見て部屋を出て行った。
「ニコライ様、ケイ様の容態はかなり悪いです。
何でこの子はあんなに危険な術を・・・。」
「それで、どうなのですか?」
ニコライは、真っ青な顔で横たわっている慧を見つめながら言った。
「ケイ様は魔力が強いのでそれを押えていたようですが
今はその魔力が体を蝕んでいる状態なのです。」
「じゃあ、このまま寝かせているわけにはいかないということですか?
何か策がありますか?」
校医はしばらく考えて言った。
「策と言えば、蒼の銀龍に来てもらう事、そして、もう1つだけ
こちらは、私の仮定ですが・・。」
「言って下さい。」
「神殿の石室に入り、ケイ様の魔力を外に放出すると良いと思います。」
「石室・・ですか。」
ニコライの顔を見て校医は慌てた。
「も・・申し訳ありません。
神聖な石室で入れるのは龍になろうと志すサーリュ様しかおりませんのに・・。」
石室と言うのは文字通り石の部屋でその部屋の下に歴代の王と妃と金・銀の龍の墓がある。
その部屋は膨大な魔力に包まれていてその魔力を外に漏らさない。
しかし、ここに入ることができるのは桜龍として修行をする神官のみである。
石室に入り修行を極めた神官は悟りを開くと言われている。
悟りを開いた神官は、石室で何も食べずに長い時間を過ごす。
悟りを開けない者は、すぐに外に出てくるのだ。
悟りを開いてはじめて桜龍は龍の姿になることができる。
しかし、この悟りを開ける龍は少ない。
現存の桜龍でこの悟りを開いた者は桜龍の当主しかいないのだ。
ニコライは、目を閉じて考えて言った。
「確かにあの修行はただ1つのものを修行に持っていってよいとなっています。
規律に反しているわけではないでしょう。
この子はこの世界の宝。金龍の龍人。
そして、私は石室の修行を行うことができる神官。
これも何かのめぐり合わせでしょう。」
そう言って目を開いたニコライの目に迷いは無かった。
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