眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-5-

本文へジャンプ




「「「ケイ」」」」

所変わってここは、アイールの黄龍の宮殿。

ファルとジークとジャンは、そう言って心配そうに顔を見合わせた。

「泣いているな・・。」ジークが辛そうに言う。

「ええ。」ファルも顔を曇らせる。

「待つしかないってわかっているけど、辛いな。」ジャンが言う。

「怪我してないと良いのですがね・・。」ファルは溜息をつきながらそう呟き

北の空を見つめた。






ルイは、珍しく制服の襟を正し慧の部屋をノックした。

「はい。どうぞ。」小さな少年の声が聞こえたのでルイは扉を押した。

ルイは中に入って驚いた。

窓から色とりどりな鳥が入ってきて少年の側に止まり

綺麗な声で歌を歌っているように聞こえる。

「あっ。皆ありがとうね。ほら、巣にお帰り。」

慧が言うと窓から鳥が出ていった。

「すごいね・・・。」ルイは小さな声で言った。

「ルイ君だっけ。私を見つけてくれてありがとう。

 そこの椅子に座って。」

慧が微笑みながら言うとルイはコクリと頷いて椅子に座った。

「そこのテーブルに熟したくだものがあるから食べて。」

慧が言ったように小さなサイドテーブルにはあふれるばかりの

くだものが置かれていた。

「すごいね。」

「ああ、さっきの鳥達が運んできたんだよ。」

慧は何でもないように言った。

「ルイ君。私は慧。ケイと呼んで。本当に見つけてくれてありがとう。」

慧は改めて頭を下げた。

「ううん。気にしないで。」ルイは首をブンブン振って言った。

「たまに、ルイ君が外で歌っているのが聞こえるんだ。素敵な声だよね。」

慧はにこにこしながら言う。

「うん・・・でも練習しても上手にならないんだ。

 だから僕はここに無理やり連れて来られたんだ。

 知っている?ここに来ている良家の者はそんな子が多いんだ。」

「ここって。学校でしょ?嫌なの?」

「違うよ。ここは学校なんだけど、卒業したら神官にならなければいけないんだ。

 だから、勉強も聖典を覚えるというものばかりなんだ。

 僕は嫌だった。でもこのままなら一家の面汚しになるって

 母様に言われてむりやり連れて来られたんだ。」

「ちょ・・ちょっと待って。面汚しって・・・。何で?」

「僕は、シーリュ。紫龍だ。紫龍は芸術の龍で僕は音楽が好きだ。

 でも、歌も楽器も上手にできないから面汚しだって・・。」

「ひどいな。」

「それでも、ここに入れられたらもうここを出ることはできない。

 神官になるしかないんだ。」

ルイは寂しそうにそう言った。

「ルイ、何か良い方法があるはずだ。私も考えるから・・。

 ねえ。私に歌聞かせてくれないかい?」

「下手だよ。」

「聞きたいんだ。お願い。」

慧を見ていると年下の弟が甘えてきたように思える。

ルイは、立ちあがると歌を歌いはじめた。

声は美しいのだが音程が外れている。

慧は、その歌を聞きながら何かを考えはじめた。

「もしか・・すると・・。」

ルイは、歌い終えて何か考え込んでいる慧を不思議そうに見た。

「ケイ・・?」

「ああ、ごめん。ありがとう素敵な歌だった。

 ちょっとこちらに来てくれない。」




ルイが慧のそばに行くと慧はルイの手を握って言った。

「私を見つけてくれたお礼だよ。」

そう言うと、慧は低く蒼の魔法を唱え始めた。

”蒼の龍の気をこの者に、光よこの者に癒しを与えん。

 風・火・水・土の精霊よ。この者の傷を癒したまえ。

 蒼の龍の誇りと知徳にかけこの者の失わしもの蘇りたまえ。”

慧の胸から金色と蒼色の光が溢れルイを覆う。

その光は暖かくルイの体中を駆け巡る。

「怖い・・・ケイ。」

そういうルイを慧が優しく抱きしめ、ベッドにそのまま倒れこむ。

その時、バターンと扉が開き、ニコライと校医が入って来た。

「何ですか。この光は。」ニコライがそう呟く。

校医は信じられないように首を振った。

「ま・・・さ・・か・・蒼の秘術・・?」

2人を包んでいた光は次第に弱くなり、ぐったりと倒れながらもルイを抱きしめる

慧と呆然と目を見開いたルイだけがそこに残った。




  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.