眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-22-

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「ケイ・・・すごいよ。」

慧が楽器を弾き終えるとルイが興奮したように言った。

「ケイ様。このように素晴らしい演奏ができる楽器なのですね。

 鍵盤とは両手で弾くものだとは知りませんでした。」

ニコライも興奮したように言う。



「ルイ。本当に久しぶりで弾いたから全然上手じゃないんだよ。

 これも本格的にやる人は毎日練習するものなんだ。

 いやあ・・・何年も弾いてなくても弾けるものだねえ。」

「元の世界でも鍵盤楽器があったのですか?」

「うん。ピアノって楽器でね。私は8歳の時両親を亡くして

 それから父の姉である伯母に育てられたんだ。

 その伯母は高校というところで音楽を教えていて

 家でもピアノを教えていたんだ。

 それで、私にもピアノを教えてくれたんだ。」

「素敵な伯母様だったのですね。」

慧はコクリとうなずいて言った。

「もっと生きてくれればね・・・私もそっちの道に行ってたかもしれないけれど

 私が17歳の時、亡くなってしまって・・・弾くのが辛くなって

 それからずーっと弾いてなかったんだ。」



「ケイが見ていたこれ・・何なの?」

ルイが紙を見ながら言った。

「ああ・・・これは、楽譜というものでどこを弾けばよいのか

 わかるようにするものなんだよ。」

慧がそう言うとニコライは驚いたように目を見開いて言った。



「そうだ!2代前の妃様の残したこのような資料を見たことがあります。

 てっきり、祭祀用の何かだと言われる意見が多くてですね。

 別の書庫に保管されていたのです。」

「その方は、人前で音楽を披露したりしていたの?」

ニコライは、頷いて答えた。

「ええ。それこそシュミレフのコンクールで声楽で優勝したこともあります。

 ただし、あまりの声の美しさに妃と知らないで求愛した者が

 殺到いたしまして、嫉妬した龍王が二度とコンクールにでないように

 言ったという伝記もございます。」

「ちょっと、ニコライ、その書庫に案内して。」

慧はそう言いながらニコライの腕を引っ張った。



3人は、別の書庫に行って大量の楽譜がおさめられている箱を開けた。

慧は何枚もの紙をめくって独り言を言った。

「この人・・・イタリアの人かなあ・・・イタリア語はやったことないんだよなあ。

 あっ。」

慧は楽譜の隅に小さく書かれているナバラーンの言葉に気がついた。

小さく題名が書かれている。

「うわぁ・・ショパンの楽譜もあるよ〜〜。この人音楽好きな人だったんだ。」

そして、ある楽譜のところで慧は大声をあげた。

「すごいよ!ニコライ。」

ニコライが近づくと慧は楽譜を差し出した。




「「愛する祖国・・ナバラーン」・・・リュウの馬鹿!・・・何ですかこれは?」

「たぶん、音楽コンクールの為の楽譜だと思う・・しかも・・これ・・・

 ピアノだけの楽譜じゃないよ。サリューク1、サリューク2、テスリラ、サフォーク

 と歌のだね。」

「えっ。と言う事は・・これは総合部門の楽譜になりますね。

 でも、この楽譜読めるのはケイ様だけですね。」

「僕・・・ケイがテスリラを弾いてくれるなら楽譜かけるよ。」

ルイが言うと慧が顔を輝かせて言った。

「ナバラーンにも楽譜があるんだ。じゃあそうしよう。」

「ちなみにテスリラと言うのは先ほどケイ様が弾かれた楽器ですよ。」

ニコライがそう言うと慧は頷いて言った。



「じゃあ、歌はルイでいいよね。サリュークとサフォーク弾ける人探さなきゃ。」

「そんな簡単に言ってもそんな身近に弾ける人はいないですよ。」

ニコライが言うと慧はニコニコ微笑んで言った。

「いや。絶対何とかする。そして紫龍の当主に勝負を挑んでやる!」


こうして、ルイと慧は秋に開催されるコンテストに参加することになった。




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