眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-21-

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「ケイ様、おかげんはいかがですか?」

「もう、かなりいいよ。どう、計画は?」

慧は、ソファーから立ちあがりながら言った。

初めてミリュナンテに来て数ヶ月がたち

季節は春になっていた。

慧の体調も少しずつ元に戻り始め、

普通に生活ができるくらいに回復した。

銀の龍達は、それぞれの仕事の他に新しい学校の構想をまとめ

それぞれが動き始めた。



桜龍の当主、イアンは神官全てを対象に誓願の儀を改めて行い

純粋に神官を続けたいものだけを神殿に残した。

驚いたことに、神官のうちの3分の1、神学校にいたっては

半分もの生徒が他に道が開けるならそちらに行きたいと表明した。

そこで、この春から試験的に新たな学校組織を

セントミリュナンテの神学校の一部校舎を使って作られた。

しかし、全てがうまくいっているわけでもなく、

今日もニコライは頭を悩ませながら慧の部屋を訪れたのだった。



「授業の進み具合、生徒の学力の向上などは、問題ないようですよ。

 しかし、学校をでた後の対応が各国足並みが揃わないのですよ。」

「それって、どういう意味?」

「基本的にケイ様と懇意の当主様たちの国では、身分の復活などの

 問題はないのです。結果から言うと、一つの国の当主だけ

 身分の復活を許していないのですよ。」

「どこ?」

「紫龍です。紫龍自体ナバラーンでは一番少ない種族なのです。

 しかし、紫龍の神官はかなり多い。

 その理由は、ルイ同様、紫龍の場合、芸術に難がある場合、

 神官にしたほうが一番体裁がよいのです。

 なので、紫龍としての落ちこぼれ=神官という図式があるようで・・・。」

「じゃあ、どうすれば実力が皆に認められるの?」

「紫龍の国、シュミレフでは年に1回、盛大な芸術のコンクールがあります。

 そこでは、様々な芸術分野での競い合いとなります。

 そのコンクールで入賞できると皆に認められるようになるでしょう。」




その時、部屋のドアがノックされてルイが顔を出した。

「ああ!ちょうど良かった。ルイ。シュミレフの芸術コンクールにでるつもりはない?」

慧が気軽にそう言うとルイは首をブルブル震わせて言った。

「無理だよ。ケイ。」

「どうして?」

「まず、僕なんかよりずっと歌が上手な兄様や父様が出るんだよ。

 それに、音楽部門のコンクールで一番注目されているのが

 総合部門なんだよ。それは、父様が選出した選りすぐりの楽団が

 伴奏をして歌うのは父様だから毎年優勝しているんだ。」

「ふーーん。楽団ねぇ。」

慧はそう言いながら目を細めた。

「それにコンクールでは、どんな曲でも良いとなっているけれど

 父様は毎年新しい曲を作ってすごい練習量をこなしているんだ。

 もう、コンクールまで半年しかないから無理だよ。」

「ニコライ?楽団って・・どんな楽器があるの?」

「そうですね。弦楽器と管楽器が何種類かありますねぇ。」

「ふーーん・・楽器ねぇ・・・。」

「あっ。楽器と言えば、鍵盤もありますね?」

「ニコライ?鍵盤って言ったよね?」

「ええ。2代前の龍王の妃が愛用していた楽器が

 貴族に流行りましてね。

 しかし、なかなか弾きこなせる人はいないのですよ。」

「ちょっと、ニコライ。書庫に連れて行って。

 その人の書いたもの残っているんでしょ?

 ルイも行くよ。」

慧が興奮して立ち上がって言った。

「ええ。何なのでしょうか?」

ニコライはそう言いながら書庫まで行くと

慧は難しい顔をしながらページをめくった。

「あった!!ニコライ。その鍵盤の楽器のところに

 案内して。」

「わかりました。」

ニコライがその楽器のところに案内すると

慧はルイにそのページを押えるように頼んでその楽器の前の椅子にちょこんと座った。

軽く弾いてみて呟く。

「ふーーん・・音は、チェンバロみたいなんだな・・・じゃあ。」

慧は、息を小さく吸いこむとその楽器を両手で弾きはじめた。

ニコライとルイは驚いたように弾いている慧の顔をみつめた。



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