眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-2-

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「よりにもよって、ミリュナンテに落ちたのですね。」

溜息をつきながら、ファルが言った。

「ミリュナンテに入るには様々な許可がいる。

 何しろ許可なしで入れるのは、龍王と花嫁だけだからな。」

腕を組みながらジークも言う。



神殿のある街、ミリュナンテ。

ナバラーンで龍王の地位は神聖だ。

そして、龍王と花嫁は没した後までも神として崇められる。

神殿では、神官が祭祀を行い祈祷をする。

その神殿の総本山がミリュナンテである。



ミリュナンテは神官の育成を目的とした学校、修道院があり

そこを卒業し、試験に合格しなければ神官になれない。

それを管理しているのは桜龍という龍で神官の中枢を担っている。

神官になるには人龍の区別がないが、修行は厳しいと言われている。

そして、そのミリュナンテは強力な結界が張られており

入る場所ごとに特別な許可が必要なのである。



通常、入るには許可に2年とも言われているのだ。

「父に言って協力してもらいましょう。

 普通の方法よりは早く手続きが取れるはずです。」

ジャンがそう言うとファルはにっこり微笑んで言った。

「君もケイに誓ったのだね。初めまして。私は蒼の銀龍。

 ファルム・リー・ソーリュ。ファルと呼んで。」

「すまない。挨拶が遅れた。我は闇の銀龍。

 ジークフリート・リー・ヤーリュ。ジークと呼んでくれて構わない。」

「いえ。私は、ジャンニ・ルー・オーリュ。先日龍の誓いを致しました。

 ジャンと呼んでください。」

ジャンは礼儀正しく言い頭を下げた。

「ジャン、かしこまらなくてよいですよ。

 私達は同等の立場なのですから。」ファルが微笑みながら言った。

「ああ。長きつきあいになるのだろうから、頼りにしているよ。ジャン。」

ジークもそう言う。ジャンはほっとしたように微笑んで言った。

「一緒にいらして父に会ってください。」

次の瞬間、3体の龍が空に浮かび、黄龍の宮殿の方の空に消えた。








「難しいですな・・この子は・・。」

蒼龍である校医が顔を顰めながら言った。

慧は、木にぶつかって落ちた時、枝が顔中を傷つけ特に

目の近くに大きな傷を負っている。

その他にも落ちたタイミングが悪かったのか肋骨と足を骨折していた。

「どうして、治療が難しいのですか?」

ニコライは不思議に思って言った。

校医は、ミリュナンテでは腕の立つ医師として尊敬されているからだ。

「ニコライ様、これをご覧ください。」

校医はそっと毛布をずらした。

真っ白に巻かれた包帯が一部だけ巻かれていないところがあった。

「この子は、龍人なのですか?守護龍は?」

ニコライは驚いたように言った。

ナバラーンでは、守護龍は龍人を守るのが普通である。

しかし、この少年は1人で倒れていたのだ。

「この子の最大の守護龍は側にいたくてもいれないのですよ。ニコライ様。

 よく御覧なさい。」

そう言って、校医は見えるようにランプをかかげた。

ニコライは屈んで慧の肩を見つめ

信じられないものをみたように目を丸くした。

「これは・・本物ですよね・・。」

そこには金・蒼・闇・黄の小さな龍が並んでいた。

校医は小さく頷いた。

「この子をここに寝かせておくのはまずいですよね。」

「この子を治すのには魔法は使えません。

 普通の龍人ならば蒼の魔術を使えますが

 この子の場合、複数の龍人なので力の配分がわからないのです。

 なので、魔術なしの治療となると、医務室の近くに

 病室を作った方がよいと思います。

 私もずっとそばについているわけにはいかないので

 だれか、この子が目覚めたら教えてくれるように

 生徒でもつけてもらえないでしょうか?

 それに当主様にお伺いをたてるにしても

 祈祷であと1月神殿に篭られるのでしょう?」

「そうでした。それでは、学院長にお伺いをたて

 病室の手配と人の手配をしましょう。

 この子をよろしくおねがいしますよ。」

「わかりました。できる限りの治療は致します。

 特に目の上の傷は大きいので何事もなければよろしいのですが。」

「そうですね。それでは、すぐに戻って参ります。」

ニコライはそう言って戸を開けて出て行った。

「相変わらず、精密機械のようなお方だな。ニコライ様は・・。」

校医がポツリと呟いた。




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