眠る君へ捧げる調べ

       第5章 君ノ眠ル地ナバラーン〜桜龍編〜-1-

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ジャンは、短剣を鞘に戻すと龍になり慧の服を加えた龍の後を追う。

他の紅龍がジャンの行き手を阻めた。

慧は、空の上で必死にもがいた。

フィリオは羽根を出し慧の近くまで飛んで来ようとするが

紅龍が暴れるので慧の近くにまで行けない。

龍の飛ぶ速度は結構速いので雲の上で地上が全然見えない。

紅龍はナバラーンで最強の闘龍である。対してジャンの黄龍は

龍としては小柄で戦いには向いていない。

突然紅龍に体当たりをされても慧の方に進もうとしているジャンの上を

黒い影がおおい、ジャンの目の前の紅龍が消えた。

見あげると、銀の玉を持った闇龍が紅龍の軍団に睨みをきかせている。

闇龍の後ろには蒼龍の姿もある。

その時、何を思ったか慧の服を加えている龍が口を開いて火をはなった。

慧が落ちていくのが見える。

黄龍と闇龍の蒼龍とフィリオは急いで慧の後を追う。

しかし、雲の下にあったバリアのような壁に激突し、慧を追うことができない。

唯一フィリオだけがその壁を抜け必死で慧を追っていった。

上を見あげると紅龍の軍団はもう見えない。

ジャンは呆然と慧の落ちていった方向を見たが遠すぎて何も見えなかった。






少年が木の上でぼーっ。と空を見あげていた。

「あ〜〜。聖典を読むんなんて嫌だな。」

スミレ色の目が曇っている。

「また・・先生に怒られるな。」

そう言いながら空を見あげ、歌を歌い始める。

その歌声は綺麗だが音がはずれている。

その時、空から黒いものが見え、それはぐんぐん大きくなり隣の木にぶつかると

大きな枝を折り曲げながら下の地面に落ちた。

少年は、驚いたように木から降りて落ちてきたものを恐る恐る見た。

よく見ると、大きなクーニャと自分より少し小さな少年だ。

少年の顔には傷がつき、血がでている。

クーニャも少年の下敷きになりぐったりとしている。

「た・・・たいへんだぁ。」

少年は立ちあがると、急いで近くの窓から廊下に入った。

石畳の廊下を走り、教室のドアをバターンと開ける。

黒板に向かって何か書いていた若い男が後ろを振り向いて言った。

「またですか。ルイ・シーリュ。席に着きなさい。」

「ニコライ先生・・・人とクーニャが・・・人から・・血が・・。」

ルイは震えながら言った。

「ルイ・シーリュ。このミリュナンテは先日の授業でお話ししたとおり

 強い結界が空にもかかっているのですよ。

 よほど、聖なる人でなければ、許可なくここに入って来れるわけがありません。」

先生は、静かにさとすように言った。

「先生・・本当だよ。とにかく・・来て。」

ルイは、そう言いながらニコライの手をひいた。

「皆さん、教科書50ページまで復習すること。」

ニコライは溜息をつきながらそう言って、教室を出た。

ルイは、廊下を走りはじめた。

「ルイ、廊下は走ってはいけませんよ。」

しかし、ルイの様子があまりにもおかしいのでニコライも急ぎ足で裏口まで来た。

「ルイ外に出てはいけないと言ったでしょう。」

ニコライはそう言いながら、ローブから大きな鍵束を出して裏口の戸を開けた。

ルイは自分が登っていた木の方に歩いていく。

「先生、その木の向こう側にいると思う。」

ニコライがそう言いながら大きな木を通りすぎると2人は驚きのあまり足を止めた。

そこには、この森に住んでいるたくさんの動物達がいた。

さっきルイが登っていた木には沢山の鳥達が止まり

木の下には、草食・肉食関わらずいろいろな動物がいて

倒れている少年とクーニャを見守っているように見えた。

動物達は、ニコライ達の姿をみると一斉にその場所から逃げ出した。

ニコライは、息を吸い込み冷静になると少年の側にかがんで、頬に手をあてながらルイに言った。

「急いで医務室の先生を呼んで来てください。

 毛布を持ってくるのを忘れないで・・。

 ああ。緊急なので、廊下は走って構いません。」

そう言いながら、慧の体を抱きその下になっていた大きなクーニャに目を移す。

「まさか・・聖獣・・。」

クーニャの背には聖獣の印である白い翼が生えていた。




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