眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-12-

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まもなく式典が始まった。

ロベルトの挨拶に始まり自治区の長や

役割を持つものの挨拶が続く。

そして、最後にロベルトが再び立ちあがって言った。

「各村の長が、この自治区の名前をケイに決めて欲しいと申し出があった。

 ケイは、皆も知っているとおりこの自治区を作る上で

 少年ながら、大変重要な役割をこなし貢献してくれた。

 最後にケイにこの自治区の名前を発表してもらいたい。」

慧は、緊張して立ち上がった。

人生二十数年、慧はこんな人前で話したことはなかった。

しかしリューゼの隣に立ちたいならこのようなことにも

慣れなくてはいけないと息を深く吸い込み皆の前に立った。

「皆さん、先ほどその申し出を受け私なりにいろいろな名前を考えました。

 そして、1つの名前を決めました。不思議とその名前がこの自治区にふさわしい。

 そう感じたからです。

 それは、”げんき”皆さんも知っているとおり光の集まる場所という意味です。

 しかし、この言葉にはもう1つの意味があります。

 私には、この世界に来る前に住んでいた場所の記憶があり、

 そこはこの世界と違う言葉を使っておりました。

 そこでは”げんき”という言葉は、体の調子がよく健康で

 活き活きした様子のことを言いました。

 私は、この自治区に住む皆様が元気であってほしいと思っております。

 そして、幸せであってほしいと願います。」

「”げんき”素晴らしい名前だ。」

誰かがそう叫ぶと皆が拍手をした。

「皆さん、そして私はナバラーンで一番大切な方にその名前を伝えると

 その方は、皆さんに祝福を与えるとおっしゃってくれました。

 どうぞ、お受け取りください。金の龍の祝福を。」

慧がそう言うと、慧の体から金色の光が溢れ

その場所を包んだ。

そこにいる者は、自分を何か暖かいものが包んでいるような感じがした。

金の龍の祝福とはナバラーンの神話でこう言い伝えられている。

”金の龍の祝福を受けた者は幸い。

 その者は金の龍の息吹に触れたから。

 良きことを考えるとき、金の龍はその願いを助ける。

 もし、祝福の時、善きこと強く願い、その願いが金の龍に届くと

 願い叶えられることもある。”


ジャンは、慧の言葉を聞き、慧と一緒に旅したことを思い出した。

この1年の旅は決して平坦なものではなかった。

人と龍の隔たりの大きさに自分の無力さを痛感し、

もう、この旅はやめたいと思ったこともあった。

しかし、慧はあきらめなかった。

そして、今も慧はこの自治区に来ることを選ばなかった人のことを

思い心を痛めている。

優しくて、強い慧を護りたいと思う。

ずっと側にいたいと心から強く願った。

すると天から黄色に輝いた石が降ってきた。

その石は2つに別れ、慧とジャンの方に降ってくると体に溶けるように消えた。

慧は、力無く倒れた。その体を、ロベルトが驚いて抱えあげながら言った。

「ケイは、伝説の金の龍人。皆さんに祝福を与え、力をつかいすぎたようだ.

 それでは、祝福を与えてくれた龍王に乾杯しようではありませんか。

 祝いとして葡萄酒を持ってきましたので今日はこの日を祝ってください。」

ロベルトはジョージに案内され、慧をベッドに寝かせると会場に戻った。

ジャンは、慧の枕元に座り黒い髪を優しく撫でた。

「ケイ・・・私の忠誠をあなたに。」

ジャンはベッドの横に跪き、数本あるブレスレッドの1本を慧の腕にはめ、

眠っている慧の手にキスを落とした。

これでジャンが銀の龍として仕えるという儀式が終わった。


その証拠にブレスレッドに嵌っている黄色の龍の珠が銀色に光った。

慧はその夜遅くにようやく目を覚ました。


数日後、慧は自治区の皆に見送られ、ロベルトの宮殿に向かった。

ロベルトが、慧に少し宮殿で滞在しないかと勧めたからだ。

ロベルトは祭典の日に宮殿に戻ったので慧とジャンは馬に乗って街を目指した。

その途中、空から何体もの紅龍が降りてきて、ジャンに切りかかる。

ジャンは、短剣を2本操り応戦するが、あまりにも周りが多い。

その時、紅龍が龍になり慧の服を噛んで空に飛んだ。

その尻尾にフィリオが噛み付き一緒に飛ぶ。

「ジャーーン。」空から慧の声がする。

「ケーーーイ」ジャンは、戦いながらそう叫んだ。




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