眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-11-

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「ケイ、もう少しで君の村かい?」

「うん。皆元気かなあ?あの村を出て、もう1年が経つからね。」

「ケイも随分背が伸びたね。もう10歳だものね。」

「そうかな?」

ナバラーンでは慧は小柄な方に入るらしく、10歳の割には小さな体だ。



「ようやく・・だな。」

「うん。ジャン、協力してくれてありがとう。」

「いや・・俺の方こそ、ケイにはすごく助けられた。」

ジャンはそう言いながらにっこりと笑った。



黄龍の宮殿を出発して、今日まで慧とジャンはアイールの全ての人の村に行き、

自治区のことを話し、そちらに移ることを勧めた。

時には、慧やジャンが人をだましているのではないかと石を投げられたり、

奴隷を獲得しようとする龍に襲撃されることもある険しい旅だった。

ジャンは慧を守り、人の村では慧がジャンを庇った。



慧が、強力な結界を張った村は位置的にも自治区に適しているとロベルトが判断したので

その村一帯が人の自治区として整備され、黄龍の軍隊がその周りを守ることになった。

ロベルトは、アイールでの奴隷販売を禁止し、市場組織を改めた。

同時に、蒼龍の治めるアシュタラ、闇龍の治めるブライデンも奴隷販売を禁止し

人の尊厳を無視した奴隷商人達は厳しく罰せられた。

ナバラーンでの司法を司る龍は、白龍と呼ばれる龍なので

当主命令という形での禁止令は効力が弱いようで

水面下では未だに人攫いや奴隷販売は行われている。



それを阻止しようと、慧は1人でも多くの人を自治区に住まわせようと説得をしたが

実際、それに賛同したのは半分くらいの人だった。

そして、自治区としての祭典が行われることになり、招待されたので、

慧はジャンと一緒に懐かしい村に向かって歩いていたのだった。

「ジャン、あの丘を越えるとジョージの村だよ。」

慧は嬉しそうにそう言った。



2人が丘を越えるとそこには、城壁とような壁が見え

村というよりも街というくらいの風景が広がっていた。

道の先には頑丈な門があり、黄龍の鎧を着た部隊がその周りを固めていた。

「ロベルトも来ているみたいだね。」

慧はその物々しい様子を見てそう言った。




招待状を門番に見せて城壁の中に入った慧とジャンを見た人の子供が

ジャンの方に走ってきて「ジャンだぁ!!肩車して〜〜〜。」と駆け寄って来た。

ジャンは、にっこり笑うと1人の子供を軽々と肩車した。

小さな女の子が慧に花束を差し出して言った。

「これ、私が作ったの。」

慧は、女の子の頭を優しく撫でると花束をもらった。

その姿は神々しく、眩しく見えた。



「ジョージ!!」

慧は祭典会場であれこれ指示を出しているジョージに抱きついた。

「ケイ・・大きくなったな。」

ジョージは抱きついてくる慧をぎゅっと抱きしめた。

「ジョージも元気そうだね。」

慧はにこにこ笑いながらジョージを見あげ、ジャンを紹介した。

「ケイ、この祭典で1つ君にお願いがあるんだ。」

「なあに?」慧が首をかしげながら言った。

「実は・・・」

ジョージのお願いを聞いた慧は首をブルブル振って言った。

「そんな重要なもの、今すぐ決めろと言うの?無理だよ。」

「どうしても・・ケイに決めてほしい。これは、この自治区に集まっている

 村の長の共通の意見なんだ。お願いだ。」

そばにいた、村の長達も口々に慧に頭を下げたので慧は渋々了承した。




慧はロベルトに挨拶をするとロベルトの膝を借りて少し眠り、

リューゼと会った。

「リューゼ、小説家だろう。なんとかしてよ〜〜。」

そう泣きつく慧にリューゼは微笑みながら言った。

「慧・・君が願うことを考えるとどうだい?」

慧はリューゼを見あげて言った。

「わかった。あれにする!!」

リューゼは、慧を抱き寄せていった。

「ケイ・・私の変わりに皆に金龍の祝福を与えて。」

「リューゼ、どうするの?」

「金の龍の祝福を皆にと願うだけで

 皆に祝福を与えることができるのだよ。」

リューゼはそう言いながら、慧の顔にキスを降らすと

慧の体が金色に輝いた。


「・・・お父様・・これは・・・。」

ジャンがロベルトの膝の上で眠る慧を見て驚いて声をあげた。

ロベルトの腕の中の慧も金色の光に包まれていた。




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