眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-9-

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「ここなら、大丈夫ですね。」

「そうだな。黄龍の宮殿近くだとは思っていたが

 どうも心配で降り立って見た。」

黄龍の宮殿の近くに2人の男が立ち話をしていた。

「ジークだけではないですよ。私もケイが心配でついつい・・。」

ファルが微笑みながら言う。

「ついにケイは黄龍の加護を受けたようだな。」

「ええ。近々仲間も増えるのでしょうね。」

「そうだな。ところで、ファル。ヤーリュの書庫から例の事件についての本が

 あったが・・・。」

「そうですか。このままお邪魔して読ませていただけませんか?」

「ああ。では行こうか?」

一瞬後、夜空に闇色の龍と蒼色の龍が飛び立ち北の空に消えた。

その龍達は、銀色の玉を持っていた。

「あれは・・?銀の龍?」

自室のテラスで夜空を眺めていたジャンが呟いた。




ジャンは慧が眠っている部屋にそっと入っていった。

フィリオが気がついて小さな唸り声をあげるがジャンが

「大丈夫。何もしない。」と言うと

また慧の寝ている枕元にあがりじっと慧を見守る。

ジャンは近くの椅子を枕元にもってきて眠っている慧を見つめた。

「君の主は、まだ小さいんだね。

 この子は何を考えているんだろう。」

あまりにもあどけない慧の表情にジャンはそうフィリオに声をかけた。

・・・ケイ様は、ナバラーンを変えてくれる御方。

   ナバラーンに愛された御方・・・

小さな声がジャンの耳に届いた。

「まさか・・・ね。」

ジャンはそう呟くと立ちあがって自室に戻った。



「リューゼ・・・。」慧が寝言を言い、その頬を透明な雫が流れた。

・・・ケイ様・・・泣かないで・・・

フィリオはそう言いながら慧の頬を優しく舐めた。





次の日目覚めた慧は、ロベルトに数日ここに滞在するように勧められた。

「ここは、黄龍の街、ナバラーンで一番栄えている商業の街だから

 いろいろ、見学してみると良いだろう。何、ジャンが街を案内してくれるさ。」

とロベルトが言ったので慧はジャンと一緒に街に向かった。



「どこに行きたい?」と聞いたジャンに慧はいろいろな市場に行きたいと答えた。

ジャンの市場は、宮殿から少しはなれたところにあったので

宮殿に一番近い市場から行くことにした。

「ここは、俺の兄が経営している市場だ。」

ジャンは顔を顰めながら言った。

立派な門の下には制服を着た門番がいた。


門番はジャンに恭しくお辞儀をすると慧に向かって言った。

「この市場は人は入れないんだぞ。」

「こいつは、俺の龍人だ。」ジャンがそう言いながら慧の肩を抱くと

門番は渋々道を開けた。

「人はここに入ることもできないの?」慧が聞くとジャンは黙って頷いた。

市場の中は高級感が溢れていて、何となく場違いな感じがした。

2人は織物や日用品の市を抜け生鮮品の方に行く。

ジャンは慧にこの地方の特産の果実のジュースを買ってくれた。

慧はジャンの袖を引っ張って言った。

「ジャン、値段高い割りに物が悪いよ。ジャンの市場の方が美味しそう」

ジャンも屈みながら低い声で言った。

「そうだろう?俺もそう思う。ところで、ケイ。

 お前は、この市場の別の姿を見たいか?」

慧は不思議そうな顔をしてジャンを見あげた。


「ジャン、どういうこと?」

「この市場には闇の部分がある。それをお前は見る覚悟あるかい?」

真剣なジャンの様子に慧は頷いて言った。

「私は、この国の全てを知りたい。ジャン、むしろそういう所に連れて行って欲しい。」



ジャンは慧に待つように言うと、紺色の頭からすっぽりとかぶるローブを二着買って来た。

そのローブを頭からかぶった慧にジャンは言った。

「ケイ、これから行くところでは声を出してはいけない。

 そして、俺の手を離してはいけない。守れるね。」

慧は黙って頷いた。


ジャンは慧の手を握ると市場の奥に立っている兵に近づいて何かを囁いた。

兵は2人についてくるように言うと市場の奥の階段を下りていく。

階段を下りると、慧は、片手を自分の口に当てて声を押えた。

そこには、たくさんの人が檻に入れられていた。

その人達の足には足枷がつけられ目も虚ろだ。

「ここは、この市場の奴隷市だ。」

ジャンは真っ青になった慧の耳元でそう囁いた。




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