眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-8-

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「リューゼ。俺は人の自治区を作りたいと思う。」

慧は、リューゼの膝の上で自分の考えをリューゼに話した。

リューゼは真剣に慧の話を聞いた。



「そうか・・・慧・・・君は私の思っている以上のことをしてくれるんだね。」

「俺は、リューゼと同じようにナバラーンを愛したい。と思う。

 でも、俺はリューゼに比べて未熟で、せめて願えるのは

 俺に今まで会った人の幸せだ。本当は、ロベルトにナバラーンの国も潤う

 なんて言ったけど、あれはおまけみたいなもので

 俺はナバラーンに生まれてよかったと一緒に暮らした村の人に

 思ってほしかっただけなんだ。

 ごめん。リューゼ。そんな気持ちで・・・。」

リューゼは微笑みながら首を振って言った。


「慧、君の考えは何も間違ってはいないよ。

 いいかい。自分の友達や周りの人の幸せを願えない者が国を愛することなど

 できないはずだろう?君は、私のことを愛してこのナバラーンで人生を

 やり直さなければいけなくなった。

 そして、ナバラーンに来てたくさんの者と会い、その者たちを愛している。

 それで、充分だと私は思う。」

「俺は、リューゼの荷物にはなりたくないんだ。

 リューゼの隣に立つとき、胸を張って隣に立ちたい。

 でも、ほんとうにまだまだだね。」

「慧・・・。荷物なんてとんでもない。

 良いかね。君は私の最後の希望なんだ。

 私は異世界で人としてたくさんの人生を歩いた。

 その中で君ほど惹かれた人はいない。

 君はね。既に私に選ばれた存在なのだよ。

 それを忘れないでほしい。」

「リューゼ。」

「わたしだって君と同じだよ。私の兄弟が幸せでいてほしいと願っている。

 そして、目覚めた後は、慧が笑っていてほしいと願うだろう。」

「俺も、リューゼが笑ってくれるといいや。」

「ありがとう。慧。私の宝・・・。」


リューゼは慧の髪に指を絡ませキスを落とす。

すると、慧の体が透明になり始めた。

「リューゼ・・。そばにいたいよ・・・。」

慧は懸命に手を差し出す。

「愛しい慧・・・私は待っているよ。」

リューゼもせつなそうに呟いた。





「リューゼ・・リューゼ。」うわ言のように呟いて慧は目を覚ました。

頬には、涙がこぼれる。それでも、自分の感情で天候が左右をされることを

知っている慧は一生懸命感情をおさめようとした。



ロベルトは慧を優しく抱き寄せて、ギュッと抱きしめた。

「私は龍王様と強く繋がっている。だから、少しは気休めになるだろう。」

それは本当のようで、抱きしめられている慧は少しずつ落ち着きを戻した。

ロベルトは、マリオに温かなミルクを持ってこさせ、慧に飲ませると

慧はそのまま崩れるように倒れた。

驚くジャンにロベルトは静かに言った。

「少しミルクに薬を入れたんだ。」

マリオはロベルトの腕から慧を抱き上げると

別の部屋のベッドに寝かせるために部屋を出た。



「ケイ・・はなぜ?」ジャンは不思議そうに聞いた。

「あの子は、我々当主の膝の上で眠る夢の中でだけ龍王様に会えるのだよ。

 どうやら龍王様の真名を呼ぶことを許されているのだね。」

「真名を・・・?それでは、本当にあの子が花嫁ってことですか・・・

 しかし、龍王様は眠りについて99年目におふれによって集まった者から

 花嫁を決めるのでは?」

「そうだね。確かにおふれは出る。しかし決めるのは龍王様で、一番龍王様と結びつきが

 強いものが花嫁に決まるのだよ。それに、金の龍人が他に現れることはもうすでにないんだ。」

「お父様、それはなぜですか?」

「金の龍人は、伝説の存在と言われているのにはわけがある。

 選ばれる可能性がかなり低いんだ。

 そして、ナバラーンで金の龍人が現れる可能性がある時期は、

 龍王様の目覚める20年前から15年前と決まっているのだよ。

 そして、金の龍人が降りたった時、当主の金の玉が熱くなる。

 これで、当主だけは金の龍人がナバラーンにいるということを

 知っているのだ。ジャン、お前は花嫁だからこそあの子と

 一緒に行くとは思ってはいけない。銀の龍は、花嫁を護るという以上に

 大きな役割を担っている。あの子は数日はここに留まるだろうから

 その間に答えを出すと良い。さあ、長い昼休みになったな。

 午後の仕事をしなくては・・。」



ロベルトはジャンの肩を優しくたたくと部屋を出て行った。

ジャンは、重い溜息をついて空を見つめた。




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