眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-6-

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それから少し後、慧は大きな城の一室にいた。

足元には心配そうなフェリオが座っている。

マリオが戻って来て言った。

「ケイ様、当主様が歓迎なさるとのことです。

 一緒に来てください。」

慧は、頷いて静かに立ちあがった。

フェリオはすっと立つとその後ろをとことこ歩いてくる。



マリオは慧を豪華な居間に案内した。

そこは、謁見の間ではなく当主の私室と言う事だ。

部屋には、当主とともにジャンもいた。

慧が部屋に入ると、当主は静かに立ちあがって言った。

「ケイだね。リュークから自慢話はたくさん聞いていたよ。

 私は、ロベルト・ラー・オーリュ。

 よく、ここまで来たね。この国では何をしていたのかな?」

と言いながら、自分の向かい側のソファをすすめた。



慧はソファに座りながら答えた。

「私は、人の村に1年おりました。そこは人が龍にさらわれる村でした。

 私は1年前にその村にヤーリュの結界を施し、人と伴に生活していました。

 しかし、いくら自給自足ができても村はそれ以上に潤いません。

 そこで、あなたにお願いをしたくて、この街に来ました。」

「お願い?なんだね?」

「この国に人が住める自治区を作り、その守護をしてもらえないでしょうか?」

「自治区かね?」

「ええ。人は器用です。調べたらこの国の生活用品から着る物まで

 ほとんどのものが人の手によるものです。それで、私は当主様自らが

 人の住むところを守って欲しいのです。」

「それで、私に対する見返りはあるのかね。」

こういうことを聞くあたりは財の龍である黄龍である所以だろう。



「あると思います。まず、人は安全が保障されるわけですから、

 作り出されるものは、上質なものになるでしょう。

 農作物にしても、1人で畑を耕すより何人もが共同で作業したら効率的になります。

 そして、その土地での作物や産物を全て一度当主様がお買いになり、販売されるルートを

 確立されるといかがでしょうか?」

「なるほど・・なら、自治区にする意味は?」

「人は龍には畏怖を感じております。なので、治める人、管理する人は人の方が良いと思います。

 できたらその者にそれなりの地位があると良いのですが・・。」

「確かに悪い話ではないな。しかし、地位となると白龍に話をつけないといけないな。

 この国だけでなくナバラーン全土にそのような自治区を作った上で行かないと

 事もうまくはかどらないだろう。」

「リュークとフェルにはその旨の手紙を書き、

 リュークの治めるアシュタラとフェルの治めるブライデンでは

 試験的にその試みをやってみるそうです。しかし、ナバラーンでは

 それぞれの国には特色は違えど、様々な龍で成り立っております。

 だからこそ、自治区に関して関わる黄龍の役割は大きくなると思います。

 この国は、当主様の目に届くかもしれない。しかし、他の国では

 当主様の目は届かない。そこに信頼置ける黄龍を配置してひとつの

 繋がりをつければ、ナバラーンはもっともっと潤うでしょう。」

「それは龍王が起きられてからでも遅くはないはず・・。」

「いえ。今だからこそ、自主的に為した方が良いと思います。

 リューゼは、自分が命令することを良しとしないでしょう。

 私は、これから、あの方に会いに行き、話しをしてみようと思います。」

「ああ、そうだったね。彼の方によろしく伝えてくれ。」



ロベルトは、立ちあがると慧の座っているソファーの横に座り慧を抱き寄せた。

マリオとジャンが驚いた顔をする。

慧は無意識にロベルトの金のブレスレッドを握るとすとんと眠りに落ちた。

眠りながらもすごく嬉しそうに微笑む慧の髪をロベルトは優しく撫でた。

フィリオが心配そうに慧の顔を舐めると2人のの足元に丸まって目を閉じた。



「お父様。この子はいったい?」ジャンは不思議そうな顔をして聞いた。

「この子は、龍王様の花嫁だよ。蒼龍の龍人ではあるが、本来の姿は、

 金の龍の龍人だ。そして、私も祝福を与えよう。」

ロベルトが優しく手を翳すと、慧の体を黄色の光りが包んだ。

「これでこの子は、金・蒼・闇・黄の龍人だ。

 元々商売センスはありそうだがね。

 なかなかかわいい子じゃないか。

 ところで、ジャン。隊商を為さないのなら

 1人前になる条件として別の仕事を与えようと思うが

 どうかね。むしろ、私はお前ならできる仕事だと思う。」


当主はまっすぐな眼でジャンを見つめた。

ジャンは驚いた顔で当主の顔をまじまじと見た。




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