眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-5-

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「お前、何て名前?」

ジャンは、慧を見下ろして言った。

「ケイです。」

「ふーーん。じゃあ、ケイ、ちょっとオフィスに行こうか。」

ジャンは、軽く慧の肩を抱き自分のオフィスに連れて行こうとした。

フィリオは、少しうなり声をあげたが、慧が小さな声で「大丈夫。」

と言ったのでおとなしく後を付いてきた。



ジャンは、オフィスのドアを開けたとたんに渋い顔をしてドアを閉めようとした。

しかし、ドアは閉まらず、妙に笑顔の中年の男が中からドアを開いた。

「マ・・・リオ・・?」

「ジャン様?今日は是が非でもお父様のところに来ていただきますよ。」

「あっ。俺・・ケイと話があるし。」

「ほう・・?その少年ですか。じゃあ、一緒に来て戴いては?」

「ほら・・・犬もいるし。」

「問答無用です。」笑顔の男は一緒に来ていた兵士に

ジャンを連れて行くように言うと、慧に目線をあわせて言った。

「申し訳ありませんが、一緒に来てくれますか?犬も一緒でかまいませんから。」

そう言って市場の近くに停まっていた馬車の中に慧を案内する。



「マリオ、ずるいぞ。」

拗ねたようにジャンが言った。

「何がずるいのですか?」

「ケイがいると、俺が逃げないのを知っているからだろう。」

「ふふふっ。どうでしょうかね。」

男は微笑みながら言った。

「さすが、親父の側近というところか。」

「ジャン様の逃げ足の早さもなかなかですよね。

 前回は、走っている馬車の窓から、飛び降りたのですよね。」

そんなことをやっていたのかと、慧はジャンの横顔をみあげた。

「俺は、あの市場で手一杯なんだ。」ジャンは独り言のように言う。

「そのようなことは、お父様の前でどうぞ。」

にこやかに、そしてきっぱりと男は言った。



「ねえ・・この人怖そうだね。」

声を潜めて慧が言うとジャンは少し青白くなりながら頷いた。

「お父様って、当主様?」

ジャンはまた頷く。

「会いたいなあ。」

慧がぽつりと言うとジャンとマリオは驚いたような顔をした。

「会うって・・お前、会ってどうするの?」

「う・・・んと、要件は2つあるんだ。でもここでは言えないな。」

「ケイ様でしたっけ、当主様とお会いになるには

 いろいろな条件がありますよ。」にこやかにマリオが言った。



確かに一般の者が当主に会うのは様々な書類を出さなければいけない。

子供のジャンですら1年に数度顔を合わせるくらいなのだ。

「えっ。だってリュークが当主はすぐに私に膝を貸す。って言ってたよ。」

慧は不思議そうに首をかしげて言った。

「はあ?リュークってだれだ?」ジャンが言うと、はっとした顔でマリオが言った。

「まさか?蒼の当主の?」

「うん。リュークは私の守護龍だよ。」

慧はきょとんとした顔で言った。

「ちょっと待て。蒼の当主と言えば、ナバラーン一の賢者という?」

「賢者?そうなの?」慧はマリオに向かって聞くとマリオは頷いて見せた。

「リューク様と言えば、1年ほど前、ひょっこり当主様に会いにきましたねぇ。

 ひょっとしたら、直に貴方のこと話されたかも知れませんね。

 あの時、珍しいことに人払いされましたし・・・

 わかりました。戻りましたら、私が当主様にお話しして見ましょう。」

マリオがそう言うと慧は嬉しそうに微笑んだ。



「なんか、嬉しいな。久しぶりに会えるんだ。」

ジャンとマリオは不思議そうに眼を合わせた。

慧は、嬉しそうに外を見つめた。

「いっぱい話したいことあるんだけど、会うと時間経つのはやいしなあ。

 よし、話すことまとめよう。」

慧の頭の中は当主の腕の中だけで会えるリューゼのことだけで

いっぱいだった。



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