眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-4-

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「もう少しで、街に着くね。」

慧は、ほっとしたように呟いた。

フィリオも慧のそばをおとなしく付いてきている。

「アイールは結構広いね。」

慧はそう言いながらひたすら足を進める。

この世界にも、乗り合い馬車などがあるが、

慧は人攫いを用心して徒歩と人気がないところはフィリオに乗せられて

この大きな街をめざしたのだ。


大きな街に入ると急に人が多くなり、活気に満ち溢れている。

どうやら、大きな市場もたくさんあるようで商売をする龍や人の姿も

数多く見られた。

慧はもの珍しさもあって、その市場に足を踏み入れた。

見たこともない色とりどりの野菜や魚、肉が並んでいる。

慧は、人が結構いる食堂に足を踏み入れた。

少し時間が遅いこともあり、食堂の人はまばらだった。

「坊や、旅の人かい?」人の良さそうなおかみさんが水をテーブルに置きながら聞いた。

「ええ。知り合いにこの街で商売するならどの市場が良いか探して欲しいと言われたのですが・・。」

「そうかい。その人は龍族ではないんだね。」

「ええ。」

「それなら、ここの市場がよいと思うよ。ここの市場は、人と龍族が自由に物を売ることができる。

 市場の管理をしているのが、ジャン様だからね。」

「ジャン様?」

「ここの市の管理をしているジャン様は、人を龍族から護るようにこの市場に自警団を作ってくれたんだ。

 だから、人は安心して商売できるし、龍族も質のよいものをここで得られるから

 これだけのにぎわいなんだ。ジャン様は、本当は黄龍として隊商に出なくてはならないのだがね。

 まだ、ここにいてくれるんだよ。」

「えっ?なんで隊商にでなきゃいけないの?」

「それは、ジャン様がルーの位を持ってるからだよ。

 ルーの位を持った黄龍は隊商を組んで商売を成功させなければ、一人前と見なされないんだ。」

「ふーーん。ねえ、おかみさん。私はその人に会えるかな?」

「会えると思うよ。ジャン様はこの市場からあんまり出ないからね。」



慧は、おかみさんのお勧めの定食を食べるとお礼を言って市場の中に戻った。

その辺の店をぶらぶらと歩く。

その時、「牛が逃げたあ。」という大きな声が聞こえた。人の悲鳴が聞こえる。

人々が牛に轢かれないように道を開ける。

牛のかける音が聞こえてくる。

「危ない・・。」男の人の声が聞こえた。

まだ、小さな女の子が、自分のおもちゃを拾うために道の真ん中に走って行くではないか。

その時、10代後半くらいの男がその女の子を庇うように抱きしめた。



慧は「フィリオ、あの2人の前に。」と言うと、犬サイズのフィリオは大きなクーニャの姿になり

慧を乗せると、ひらりと男を飛び越え、せまってくる牛の前に降りた。

慧は、静かに立ち牛の方をみて、「止まりなさい。」と言った。

フィリオも慧を守るように慧の横でうなり声をあげる。



慧は、金龍の龍人。金龍は、ナバラーンの創造主。

動物達は誰よりも金龍を崇めている。

暴走した牛も慧の姿を認めると、急に足を止めた。

周りからどよめきの声が聞こえた。

慧は犬サイズに戻ったフィリオの頭を「ありがとう。」と言いながら撫で、

呆然と慧を見つめている男と女の子の近くに歩いていく。



「坊主。危ないじゃないか。」

慧が近づくと男は咎めるように言った。

慧は、それを無視して、男の腕の中の女の子を立ちあがらせ、

ポケットにあった飴をその子に握らせた。

男もはっとしたように女の子を振り返り、優しく女の子の頭を撫でる。



その時、女の子の母親が男の近くに寄ってきて

丁寧にお礼を言いはじめた。

「ジャン様、ありがとうございます。」

男は、「いや、俺が助けたのではないよ。この子はあの坊主が助けたんだ。」

と慧の方を振り返ると、慧は、暴走した牛に低く話しかけ、

慎重に怪我は無いか足を調べていた。

その姿は慈愛にあふれ、慧が居る場所だけ輝いているように見えた。



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