眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-3-

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「ケイ、少し休もうか?」

「うん。ジョージ。」

慧は小さな手をとめて布で汗を拭った。

この人間の村にきて1年が過ぎた。

村の男達は今では外に出て思い思いの仕事をしている。

慧は南国の日の強さに弱く日焼けしやすいので

主に女達がやる工芸の仕事を手伝っていたのだ。

慧は汗を拭きながら、ジョージの持ってきた水筒から水を飲んだ。

医術は使えるが慧はやっぱりまだ8歳の子供なので、体力が無い。

しかも、この世界の子供よりかなり華奢だ。

でも、この1年、この村を豊かにすることを誰よりも一生懸命考えたのは

この小さな慧だ。

おかげで、どうにか自給自足できるようになったばかりでなく、

元々あった陶器を作る技術に美しい模様を描く技術を

村の女たちと編み出し、沢山の焼き物を作り出した。

その他にも変わったデザインの服を作ったり、

合間には、子供達に文字の書き方や計算のしかたも教えている。

特に、慧が編み出したとされているソロバンは、大人にも需要がある。

その才能に、ジョージの祖父である村長も驚き、

何かあると、慧に相談するようになった。



「この村も自給自足ができるようになってきた。

 でも、外との交流がないとやはり厳しいな。」

ジョージは溜息をつきながら言った。

「それで、考えたのだけど、この国に人だけの自治区を作ろうと思うんだ。」

「自治区?」

「ああ。ナバラーンには、その地域、地域が違う種族の龍が治めているのだろう?

 だから、人は人の国をその中に作って自分達で生活する。

 そして、例えば、今までと同じように龍に労働力やこのような工芸品を提供する。

 その見返りに龍が責任を持ってその地域に住んでいる人を守る。

 そういう場所を1つ1つの地域に作るとよいと思うんだよ。」

「ケイ、そんなことを言ってもすごく難しいことだよ。

 ナバラーンで人の安心して住めるところは龍王様が治めている

 ナバラデルトという地域にしかないんだ。」

「まったくないってわけじゃないんだ。」

「でも、ナバラデルトにはほとんど人は入れないんだ。あそこに行くには必ず紅龍の治めている

 国を跨がなきゃいけないからね。」

「紅龍・・・。確か闘う龍だったっけ。」

「ああ。紅龍は人が嫌いだから、紅龍の国、シャードファイアにはほとんど人は住んでいないんだ。」

「そうなの?まあ、とにかく近いうちにこの国の主が治めている街に行こうと思うよ。」

「ケイ・・・。危険だよ。俺も行く。」

ジョージは身を乗り出して言った。

「だめだよ。ジョージ。今、この村をジョージが出たら誰がこの村を統率するの。

 私は、大丈夫。龍人だから・・。最悪なことは無いよ。」

「いくら、蒼の龍人だからってここは黄龍の国なんだぜ。」

「ううん。私は蒼の龍人だけど、それだけじゃないんだ。」

「それだけでないって?」

慧は、そっと右肩をずらして見せた、ジョージの目が驚愕で見開いた。



「私は、金・蒼・闇龍の龍人なんだよ。」

「お前、辞めたほうが良い。お前が龍の花嫁になるなんて。」

ジョージは激しい様子で言った。

「なんで?ジョージ?」

「龍が恐れられているのは、理由があるんだ。」

「理由?」

「ああ、龍王の花嫁は龍ではなく、龍人だ。

 それで、龍王が花嫁を見つけ結ばれたという瞬間数分だけ、

 ナバラーン全体の水にその姿が映ると言う。」

「うん。」

「金の大きな龍が己の大きな楔を花嫁に突きたてるという

 映像は、恐怖以外の何ものでも無かったそうだ。」

「そうなんだ。ジョージ、それでも私にはあの方しかいなんだよ。」

せつなそうに慧が言った。

「ケイ・・・何もつらい生き方を選ばなくても良いのじゃないのか?」

「ジョージ、私は今が一番辛い。

 まだまだ、20歳になるまで何年もある。

 それまで何年も、あの人の横に胸を張って立ちたいという気持ちだけで

 生きていかなきゃならないんだ。」

「ケイ・・・。」

「ジョージ、もし私があの方と結ばれた時、その時は私の顔を見て。」

「何で?」

「私の顔は幸せで輝いているはずだから。」

「・・・。」

「幸せな顔を見て、それを見せている龍王の意思を感じて。」

「龍王の意思?」

「たぶん、それを見せるということに意思があると思う。

 それは、単純に自分の花嫁がこの人だということだけではないと思う。

 だから、ジョージ。お願い。

 私は、龍も人も好きだ。だから、今の私の話を1人でも多くの

 人に話して。」

慧はそう言ってジョージの手を握り締めた。

ジョージは目を閉じて考えて言った。


「ケイ、わかったよ。俺はもう何も言わないよ。」

慧は嬉しそうに微笑んだ。


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