眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-2-

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次の朝の早朝、慧は村のはずれで闇の魔術を唱えた。

「ヤーリュの力よ。いざ目覚めよ。

 この村は人にとっての集落。

 悪しき心を持った龍にとっては集落にあらず。

 この村の真実を見るのはナバラーンの龍王に属した

 自然・生物、良き心を持った人のみ。

 その他の全てをここで遮断す。」

すると、黒い霧がピアスから出て周りを包んだ。慧は懐から闇龍の美しい装飾の懐刀を出した。

慧はその剣を村の境に突きたてるとフィリオが犬から本来の姿・・・

銀色のクーニャで白い翼がある姿に変わり村の境を駆けはじめた。

慧は剣に寄りかかるように自分から均等に力がでるように調節した。

額から脂汗が流れ大きな圧力みたいなもののせいで

体の力が抜けそうになる。

すると、胸の中の蒼い石が光り、優しく慧を包む。

フィリオが戻ると同時に慧はそのまま地面に倒れた。

・・・ケイ・・・大丈夫ですか?・・・

フィリオの声は慧に届かなかった。



若い男が目覚めた時、昨日の少年はどこにもいなかった。

しかし、茶色の鞄はきちんと折り畳んだ毛布のそばに置かれていた。

男は、そっと扉を押して外に出た。

すると、犬サイズのフィリオが男の側に来てズボンの裾を引っ張る。

「おまえ、俺に来てほしいのか?」男はそう言いながらフィリオについていった。

一緒に行くと村の境界の所で慧が倒れていた。

男は慧を抱きあげると自分の家に戻ろうと歩いた。



その時、いつも村を荒らす黄龍の軍団が見えた。

たまたまその周りには隠れるところもない。

男は凍りついたように空を見あげた。

しかし、黄龍の軍団は何もないようにまっすぐ東の空に消えた。

「ま・・・さか・・・。」

男は、昨日の慧の話を思い出した。

「早速・・結界を張ったと言うのか・・・。」

視線を落とすとまだ小さな少年で顔色が真っ青だ。

男は自分の家に戻ると自分のベッドに慧を寝かせた。



慧は真っ白な顔で静かに横になっている。

「この少年なのか・・わしの病気を癒してくれたのは・・・。」

「じいさん。」

老人は、優しく慧の頭をなでた。フィリオは黙って眼を瞑って丸まっている。

聖獣と言えども結界を張るには少々疲れたようだ。


その日は、色々な龍が村の上を通ったが龍にはこの村の存在はわからないようだった。



しかし、その夜大きな黒い龍がその村の広場に降り立ち、人型を取った。

見たことが無い闇龍の出現に

村の者は怖くて、外には出てこない。

男は、深い紺色の髪に黒い闇色のマントを羽織り目付きが鋭い。


次に大きな蒼い龍が広場に降り立ち白いマントを纏った男になる。

その男は蒼い髪と青い目を持ち、優しい顔立ちをしている。

「久しぶりですね。ジーク。」ファルは丁寧に礼をして言った。

「ああ。先日は急に失礼した。ファル。」

ジークは暇を見つけてファルと交流を持っているようだ。


二人は顔を見合わせて、一軒の家の方へ行き、ノックした。

老人が扉を開ける。

「こちらにケイがいると思いますが、会わせていただけませんか?」

ファルがにこやかに言うとそのすきにフィリオが来て嬉しそうにジークに擦り寄る。

老人は黙って扉を開けた。

二人はまっすぐに慧の眠っている部屋に行った。

若い男と女の人が驚いたように二人をみつめた。

「まったく・・・無謀なことを・・・。」ファルが溜息をつきながら言った。

「さっさと回復させるぞ、このままなら2ヶ月は寝込むだろうし・・。」

ジークはそう言いながら、目を閉じ、ファルも同じように目を閉じた。

2人の胸の蒼い石と黒い石が光りだし慧の胸の同じ色の石に吸収されていくと

慧の顔色も少し良くなったようだ。



ファルは慧の診察をする。ジークはフィリオを連れて外に出て行った。

ファルは診察を終えるとほっとしたように言った。

「もう大丈夫。この子は3日位したら治りますよ。

 少しここで療養させてくださいね。」

老人は黙って頷いた。ジークも戻って来て言った。

「結界を強化した。たぶん、上位龍でなくてはこの結界に気づくことも無かろう。」

「あなた方は?」老人は恐る恐る2人に聞く。

「この子を護るべき者です。この子は龍人でしてね。」

「おお・・・確かにわしの病をこの子が昨日癒してくれました。」

「そして、ヤーリュの力を使って結界を作った・・。この子の体には負担だった。」

ジークは、慧の頭を撫でながら言った。

「ま・・・さ・・・か・・・この子が2つの龍の龍人とは・・。」

驚いたように老人が言う。

「ええ、この子には、溢れるほどの魔力がありますので・・。」

ファルも微笑みながら慧の頭を撫でて言った。


「私達が来たことをこの子には言わないで下さい。」

「なぜ?」老人が言う。

「この子が余計な気を使うからですよ。」

「そして、寂しがるからだ。フィリオも良いな。」

2人はそういうと家を出て龍になって帰っていった。




銀の龍は、花嫁を護る存在。

銀の龍となった者には花嫁の心の動きや状況がわかる。

そして、銀の龍の最優先事項は花嫁。

だから2人は慧のそばに駆けつけた。

しかし、愛しいからこそ気づかれてはいけない。

この子は、ナバラーンの金の龍人。

世界と龍王に愛された子供。

これから、この子はきっとこの世界を変えてくれるから。



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