眠る君へ捧げる調べ

       第4章 君ノ眠ル地ナバラーン〜黄龍編〜-1-

本文へジャンプ




ジークと別れて1月が過ぎた。

慧は、あの後リュークの背に乗せられ南の国アイールに来ていた。

フィリオは、背から大きな翼を出しリュークについてきて今は犬のサイズに

なっている。慧は、リュークと別れて旅をしながら医術と癒しの術を使い、

日々を過ごしていた。


南の国アイールは黄龍が治めている国で交易が盛んなにぎやかな国だ。

人もおおらかで明るく、何より実力主義な国なので慧も過ごしやすい。

どうやら慧に医術と癒しの術を教えてくれたファルは蒼龍の中でも

かなり力や技術が高かったようで、その教えを受け継いでいる慧の技術力や

魔法も確かなものなようだ。


人づてに慧の噂を聞き、行く先で治療を待っているものもいた。

基本的に慧は診療代を最低限しか請求しない。

お金が払えない人は一夜の宿を提供したり、食べ物を提供したりする。

そして、貧しい者には慧は何も請求しなかった。

これは、ファルも同様のことをしていたからだが実はこの世界でそのようにしているものは

ルーの称号を持っている者しかいなかった。


一般的な医者は、診療料が高く庶民にとっては手に届かないものだったのである。

そして、ここでも人と龍の格差があった。

龍は人を見下し、人は龍を恐れている。

人は慧を龍だと思って恐れる。

実は龍人というのは結構やっかいな存在で、人には龍とみなされ

龍でもルー以上のもので無い限り慧の本質はわからない。

だから、大方の龍は慧を人として見下す。



「今夜は野宿しようか?フィリオ?」

慧は、フィリオに言うと、フィリオは同意するように慧に寄り添った。

ちょうど、山道を下った所に集落があったが

時間が遅かったからだ。


その時、女の子の声が聞こえた。

「おじいちゃん、おじいちゃん、苦しまないで・・。」

ひどい咳の音が聞こえる。

「まだ、大丈夫。魂の声は聞こえない。」

慧は小さく独り言を言いながらその家の扉をノックした。


女の人が家の扉を開けて、「ぼうや、どうしたの?」と聞くと

慧は「私は、旅の者で医術の心得があります。ひどい咳が聞こえたので・・。」と言った。

女の人は驚いたように「あんた、龍かい?うちは、金がないから医者なんてお断りだよ。」と言った。

慧は首を振って「お金はいりませんよ。」と言うと女の人は中にいれてくれ、

老人のベッドのところに案内してくれた。

ベッドの横には、若い男と小さな女の子がいた。

慧は、ポケットから飴を取り出すと女の子に差し出し、老人の脈をとり診察すると、

茶色のバックから白いマントを取り出した。

白いマントは、癒しの魔法の力を引き出すアイテムだ。


慧はそれを羽織ると手を老人の方へ差し出すと、蒼い光が手から出て老人の体に広がる。

家のものは、驚いた顔をした。老人は静かに眠っている。

「もう大丈夫だよ。」慧は女の子に笑いかけながら言い、家を出ようとした。

「あの・・野宿なさるんでしたら、ここで休んでいってください。」女が言った。

聞くと、慧の癒した老人はこの集落の村長だそうだ。



「この村は人間の村だ。でも男は龍に連れられて行き働かせられる。

俺は、爺さんの跡取りということで残された。」

若い男の話に慧は少し考えた。

聞くと、龍が勝手に飛んできて、人を物のように拉致し働かせることは当たり前のようだ。



・・・フィリオ、ジークってあの洞窟の周りに結界張っていたよな

 闇龍の加護受けてるってことは、あれできるのかな・・・


・・・ええ、ケイ様はできます・・・

・・・それって村中ってできるの?・・・

・・できると思いますが・・

慧は、若い男に聞いた。

「もし、男が連れて行かれないなら、何かこの村でできることってないの?」

「できること?」

「ああ。ここは黄龍の国なのだろう?商売になることはできるのか?」

「そんなこと考えたことはない。男や可愛い子供は逃げることで精一杯なのだ。」

「じゃあ、考えようよ。私には結界を張る力があるから明日の朝結界を張る。

 たぶん、普通の龍はこの集落は森にしか見えないと思う。

 それから、考えよう。だめだよ。絶望の中に生きるのは。

 希望の為に生きなきゃだめだ。龍と同じことなんかできなくても良い。

 それは、君達が人間だからだ。君達は人間だからできることを考えなくてはならない。」



男は少年らしからぬ慧の顔をまじまじと見た。

「俺達ができること?」

「うん・・・。」

その慧の言葉に男は考え込んだ。




  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.