眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-13-

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笑い声が聞こえる。

慧はそっと目を開けた。

頬を涙がつたっている。

もう少し、リューゼと共にあの居心地のよい空間にいたかった。


なぜだかは知らないがジークの父の腕の中にいる。

「ケイ、だいじょうぶかい?」リュークが声をかける。

「ごめんなさい。」慧はジークと同じ濃紺の瞳を見あげながら言った。

「いや。」

そう言いながら、ジークの父は慧の頬の涙を優しく拭ってくれた。

「ありがとう。」

「ふむ。」

「父上はあまり話さない方だから気にするな。」

ジークがそう言ったのを聞いて慧はもう話は終わったのだと思った。



慧がジークの父親の膝の上から降りた。

リュークが慧を抱きあげて言った。

「ケイ。いいかい。あまり感情に流されてはいけない。

 君の感情は、龍王と繋がっている。

 だから、君の感情は時として天候も変えてしまうのだ。

 いいかい?」

慧はおとなしく頷いた。

ジークは慧の横顔を見ながら静かに言った。

「ケイ、私は父と一緒に行き、闇龍についてもっと学ぶことにした。

 父は一族の問題を片付けてくれるそうだ。」

「ジーク・・。」

「父とは、ゆっくりと話をすることにした。」

「うん。」

「ケイ。礼を言う。あの時龍の約束をしたお陰で今の我がいる。

 恨みや憎しみは何も生まないことをケイは教えてくれたのだな。」

「ううん。俺は、少しだけ手伝っただけだよ。」



「それでだ。ケイにフィリオを残していく。」

「だめだよ。フィリオは、ジークの大切にしている相棒でしょ?」

「ああ。だからだ。それにフィリオはただのクーニャじゃない。」

「えっ。」

「私が最初に育てた聖獣だ。だから、おまえの側にいて

 お前の好きな場所に連れて行ける。」

「聖獣?フィリオ?」

フィリオが近づいてきて慧の顔をペロっと舐めた。



慧は泣きそうになりながら微笑んだ。

ジークは慧の横に跪いて言った。

「これが、我との繋がりの印。」

ジークは銀のピアスを耳からはずして慧に渡す。

「ありがとう。ジーク。つけてくれる?」

慧は黙って耳を差し出した。

ジークは懐から刀をとりだし、数回振ると刀の刃がとがって錐のようになった。

ジークはそれを慧の耳に当てて穴を開け、ピアスをつけると凛とした声で言った。

「ケイ、大切な君に我の祝福を。」

すると、ピアスに闇色の美しい石が入った。

同時にジークの黒いピアスは銀色に光った。



実は、これがジークが銀の龍として側に仕えるという大切な儀式だった。

しかし、慧はそれを知らない。

ジークの父がジークに厳かに言った。

「ジークフリート・ルー・ヤーリュ。汝の地位を取りあげ新しくリーの地位を授ける。」

ジークは黙って頭を垂れた。



ジークの父は、慧の方に向いて言った。

「我はフェルナント・ラー・ヤーリュ。汝を龍の花嫁と認め、我の祝福を与える。

 ジークフリートが世話になったな。」

そう言いながら、黒い懐刀を差し出す。

「これで、闇龍の力を使うと良い。」

慧は驚いてフェルナントを見あげた。

「闇龍の力も何かの足しになるだろう。

 それに、寂しくなったらいつでも皆を呼べばいい。

 龍ならすぐに着く。」




素っ気無い中にも言葉は温かい。

慧の視界が涙で滲む。

ジークは優しい仕草で慧の涙を拭いていた。



『この子は貴方がやりたくてもできなかったことをしてくれてるのですね。

 龍王様』

リュークは、微笑みながら眠っている龍王に話しかけた。

闇龍一族のことは、龍王もずっと気にしていた。

しかし、龍王の言葉は命令になってしまう。時として権力は邪魔になることもある。

慧が気を失っている間、ジークフリートの口から語られた一族の姿に

さすがのフェルディナントも衝撃を受け、一族を正しい姿に導こうと決めた。

驚いたのは、ジークはケイに龍の誓願をさせられ復讐をせず、恨みを無にしたということだ。

今のジークは銀の龍玉を持っている。こうなると一族も手を出せない。

しかも標的になろうであるケイと離れているから存分に改革できるだろう。

たった、8歳の子だが愛しいと目を細めるリュークだった。





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