眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-9-

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数日後から、ジークは慧に闇龍の力の使い方を教え始めた。

そして、その合間に2人はいろいろな話をした。

ジークの胸が苦しくなった時には、慧が抱きしめ金龍の力を使うことにより

ジークの心に巣くっていた妬みや恨みも少しずつ薄れていった。



1月くらいしてジークは慧に黒いマントを渡し、

近くの村に闇龍の仕事をしに行くと言った。

ジークはいつものように黒豹になり慧はフィリオの背に乗ると

ジークとフィリオは凄い速さで村に向った。

村に着くと、人型に戻ったジークと慧は闇龍の魔術で姿を見えなくした。

目的の家の近くに来たらリーンリーンという鈴のような音が聞こえた。

ジークは低い声で、これが魂が闇龍を呼んでいる音だと教えてくれた。

2人が家に入ると、ベッドの上でおばあさんが寝ている。

その周りを家族が囲んでいる。蒼龍の医師が黙って首を振った。

この姿では、人がたくさんいても幽霊のように人をすり抜けることができるので、

ジークと慧は、静かに枕元に行く。

その時、おばあさんの体が光り、枕元に半透明のおばあさんが体から抜け座った。

「龍王の名の元にお迎えに伺いました。」ジークはそう言うと優雅にお辞儀をした。

慧も慌ててジークと同じようにお辞儀をする。

「死神が来ると思っていたら、綺麗な人が来るのだね。」おばあさんはそう言って微笑んだ。

「苦しみも何もないところで少し休まれると良いでしょう。

 思い残しはございませんか?」

「この家に祝福を・・。」おばあさんはそう言って寂しそうに微笑んだ。

「御意。」ジークはすっと手を翳すとオレンジの光りが家を包んだ。



ジークは「お手をどうぞ。」とおばあさんを立たせると、そっと後ろから抱きしめ

懐から出した小刀で半透明のおばあさんが肉体から繋がっていた銀の鎖を切ると

ジークの手の中には白いボールが残った。そのボールはキラキラ白く輝いている。

ジークは、慧に合図してその家を出ると森の方へ足を向けた。



その途中「ちっ。」と舌打をすると、ジークは大切にもっていた白い玉を慧に持たせ

街道の方に足を向けた。



そこには、紅い髪の男が倒れていて、武器を構えた半透明の男が立っていた。

ジークは慧を下がらせて男の方に行くと静かに言った。

「龍王の名の元にお迎えに伺いました。」

男は、「うるせぇー」と言いながら刀を振りかざした。

ジークは、ひらりとその攻撃を交わすと、懐から小刀を出し、1回振る。

すると、小さな刀が一瞬で大きな薙刀のような武器に変わり攻撃を繰り出した。

そして、一瞬のうちにその刀で、男の鎖を断ち切った。

男が立っていたところには赤黒い野球ボールほどの玉が転がっていた。

ジークは、それを拾いあげると慧と一緒に森の入り口まで歩いた。



2人は、そこで闇龍の魔術を使う。

すると、着ていたマントが一瞬に真っ黒な翼に変わった。

ジークの翼はとても大きく、慧の翼は体に合って小さい。

「行くぞ。」ジークはそう言うと羽根を使ってゆっくりと天に向って羽ばたいた。

慧もぎこちなくそれを追う。

前を行くジークは何かで見た天使のように美しい。

全身真っ黒だけど、凛々しい。

慧は一生懸命に羽ばたいてジークの止まっているところに行った。

ジークは、慧が横に来ると刀を出して厳かに言った。

「ヤーリュの泉よ。ジークフリート・ルー・ヤーリュの契約の元に現れん。」

すると、目の前に門が現れ開かれる。



2人がそこから入ると中には美しい泉があった。

ジークは、自分が持っていた紅い玉をその泉に浮かべる。

慧もその横に白い玉を浮かべた。

すると、2つの玉は静かに泉の中に沈んで行った。

慧は、まぶしそうにその泉の底をずっと覗いていた。





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