眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-8-

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龍の約束は絶対の約束だ。

それを違えると身体的苦痛が待っている。

慧は黙ってジークに抱きついた。

「ジークごめん・・・。」

「なぜ・・・?」苦しそうにジークが言う。

「ジークの気持ちを全然考えていなかった。ごめん・・・。」



突然、慧の体を金色の光りが包む。

その光りはジークをも包みこむ。

「これは・・・?」

その光りはジークの体の中にもしみ込んで来る。

それと同時にジークの苦痛も弱くなった。

そして、あの禍々しい気持ちも和らいだ。



一方、慧にはその気持ちがダイレクトに伝わって来た。

慧は、ポロポロ涙を零した。

「なぜ泣く・・。」ジークは慧の頬から涙を拭って言った。

「ジークが泣かない分・・泣いてやるんだ。

 恨みを手放したぶん・・俺が泣いてやる。」

ジークは優しい顔をした。

「ありがとう・・ケイ。お前の涙は綺麗だな・・。」

そう言って慧の頭をグシャグシャ撫でた。

「俺は・・何もできないけれど、ジークが苦しくなくなるまでそばにいてやる。

 ここで、一緒に。」

「それは、私の花嫁になるってことか?」

慧は首を振って言った。

「ごめん。ジーク・・俺の心はすでにある人に渡している。

 でも、かけがえない友にはなれないだろうか?」

「ケイ・・お前はいったい何歳だ?7歳の言うことじゃないな。」

「俺は本当は20歳を越えているよ。」慧はそう言ってジークを見あげた。

「そうか・・・でも、我の為にだけここに留まるというのは我の気も済まぬ。」

「どういうこと?」

「もし、ケイがやる気があるなら闇龍の仕事をお前に伝えよう。」

「闇龍の仕事?」

「ただし、ケイ。闇龍の仕事は精神的にきつい。

 特に医者の立場なら辛いと思う。」

「闇龍の仕事って何?」

「闇龍は、死者の魂をあるべき場所に戻す仕事だ。」

「うーーん・・実感がわかない。」

「人間は闇龍を死神とも言う。

 人や龍が死ぬとき、我らの耳には魂の声が聞こえる。

 その声が聞こえたらその者はもう助からない。

 蒼龍の手を尽くしても戻ることはできない。」

「うん。」

「その声が聞こえると我が姿を消しその者の枕元に行き、

 体と魂の鎖を断ち切って魂の浄化場所に送る。」

「それがなぜ、精神的に疲れるの?」

「死ぬのを納得している者ならそれで良い。

 死んだことがわからない魂は闇龍を敵と見なすものも多い。

 だから、時には戦ったり説得したりせねばならない。」

「そうなんだ。」

「ああ。だからその1つの方法として我らは闇の魔術も使えるのだが

 残念なことにそれを正しい方法で使わない闇龍もいる。」

「ジークが塔に閉じ込められたように?」

「ああ。あれは間違った使い方だ。」

「でも、何でジークは俺に伝えるのを戸惑っているの?」

「ケイは、蒼の術を使う医者だ。闇龍の力があるとその患者の死期がわかる。

 その時、ケイは医者であり続けることができない。

 なぜなら、一番近い闇龍がその魂と触れ合う義務があるからだ。」

「つまり、闇龍の術を知ってしまうとその魂は俺が・・・?」

「ああ。そうだ。」

慧はじっと自分の手を見つめながら考えた。

そして、静かに言った。

「ジーク。それでも俺は願う。

 俺はね。心を決めた人に出会えるまで13年を過ごさなくてはいけないんだ。

 俺がその人と会えるのは特定の人の膝の上で眠る夢の中だけ。

 そして、その人は夢の中でいつもナバラーンのことを嬉しそうに聞いて語る。

 俺に何でそんなに長い時間をその人は与えたのだろうか?

 俺はずっとそう思ってきたんだ。

 でも、きっとその人はナバラーンを俺に知ってほしいと思ったんだと思う。

 俺の目で知って、その人と同じように慈しんでほしいと思ったかもしれない。

 たぶん、あの人は万能だ。だから、俺は少しでもあの人に近づいて

 胸を張ってあの人に会いたい。

 それには、ジーク、闇龍のことも知らなければならない。」

ジークは真剣に自分の目を見る慧に微笑んで言った。

「わかった。」




・・・リューゼ・・これで、少しはあなたに近づけるかな?・・・





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