龍の約束は絶対の約束だ。
それを違えると身体的苦痛が待っている。
慧は黙ってジークに抱きついた。
「ジークごめん・・・。」
「なぜ・・・?」苦しそうにジークが言う。
「ジークの気持ちを全然考えていなかった。ごめん・・・。」
突然、慧の体を金色の光りが包む。
その光りはジークをも包みこむ。
「これは・・・?」
その光りはジークの体の中にもしみ込んで来る。
それと同時にジークの苦痛も弱くなった。
そして、あの禍々しい気持ちも和らいだ。
一方、慧にはその気持ちがダイレクトに伝わって来た。
慧は、ポロポロ涙を零した。
「なぜ泣く・・。」ジークは慧の頬から涙を拭って言った。
「ジークが泣かない分・・泣いてやるんだ。
恨みを手放したぶん・・俺が泣いてやる。」
ジークは優しい顔をした。
「ありがとう・・ケイ。お前の涙は綺麗だな・・。」
そう言って慧の頭をグシャグシャ撫でた。
「俺は・・何もできないけれど、ジークが苦しくなくなるまでそばにいてやる。
ここで、一緒に。」
「それは、私の花嫁になるってことか?」
慧は首を振って言った。
「ごめん。ジーク・・俺の心はすでにある人に渡している。
でも、かけがえない友にはなれないだろうか?」
「ケイ・・お前はいったい何歳だ?7歳の言うことじゃないな。」
「俺は本当は20歳を越えているよ。」慧はそう言ってジークを見あげた。
「そうか・・・でも、我の為にだけここに留まるというのは我の気も済まぬ。」
「どういうこと?」
「もし、ケイがやる気があるなら闇龍の仕事をお前に伝えよう。」
「闇龍の仕事?」
「ただし、ケイ。闇龍の仕事は精神的にきつい。
特に医者の立場なら辛いと思う。」
「闇龍の仕事って何?」
「闇龍は、死者の魂をあるべき場所に戻す仕事だ。」
「うーーん・・実感がわかない。」
「人間は闇龍を死神とも言う。
人や龍が死ぬとき、我らの耳には魂の声が聞こえる。
その声が聞こえたらその者はもう助からない。
蒼龍の手を尽くしても戻ることはできない。」
「うん。」
「その声が聞こえると我が姿を消しその者の枕元に行き、
体と魂の鎖を断ち切って魂の浄化場所に送る。」
「それがなぜ、精神的に疲れるの?」
「死ぬのを納得している者ならそれで良い。
死んだことがわからない魂は闇龍を敵と見なすものも多い。
だから、時には戦ったり説得したりせねばならない。」
「そうなんだ。」
「ああ。だからその1つの方法として我らは闇の魔術も使えるのだが
残念なことにそれを正しい方法で使わない闇龍もいる。」
「ジークが塔に閉じ込められたように?」
「ああ。あれは間違った使い方だ。」
「でも、何でジークは俺に伝えるのを戸惑っているの?」
「ケイは、蒼の術を使う医者だ。闇龍の力があるとその患者の死期がわかる。
その時、ケイは医者であり続けることができない。
なぜなら、一番近い闇龍がその魂と触れ合う義務があるからだ。」
「つまり、闇龍の術を知ってしまうとその魂は俺が・・・?」
「ああ。そうだ。」
慧はじっと自分の手を見つめながら考えた。
そして、静かに言った。
「ジーク。それでも俺は願う。
俺はね。心を決めた人に出会えるまで13年を過ごさなくてはいけないんだ。
俺がその人と会えるのは特定の人の膝の上で眠る夢の中だけ。
そして、その人は夢の中でいつもナバラーンのことを嬉しそうに聞いて語る。
俺に何でそんなに長い時間をその人は与えたのだろうか?
俺はずっとそう思ってきたんだ。
でも、きっとその人はナバラーンを俺に知ってほしいと思ったんだと思う。
俺の目で知って、その人と同じように慈しんでほしいと思ったかもしれない。
たぶん、あの人は万能だ。だから、俺は少しでもあの人に近づいて
胸を張ってあの人に会いたい。
それには、ジーク、闇龍のことも知らなければならない。」
ジークは真剣に自分の目を見る慧に微笑んで言った。
「わかった。」
・・・リューゼ・・これで、少しはあなたに近づけるかな?・・・
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