眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-10-

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「久しぶりだなあ。」慧は、水浴びをしながら言った。

「慧・・・泉の水は冷たくないか?」ジークが聞く。

「ううん。気持ち良いよ。」慧は上半身裸のジークに泉の水をかけて笑った。

「やったな。」ジークはそう言って笑いながら慧に水をかけ返した。

慧がキャアキャア言って笑う。

それを近くでフィリオが見ていた。

二人が一緒に住み始めて1年が経った。

この1年は、2人はいつも一緒だった。

初めの数ヶ月は、ジークの感情が落ち着かずに体中に激痛を覚えることも

少なくなかった。

そのたびに慧はジークを抱きしめ金龍の力を使って気持ちを癒した。

慧はジークにある意味過酷な約束をさせたと後悔した。

しかし、ジークは「それでも、我はケイに感謝している。」と言ってくれた。

最近ではジークも感情的に落ち着いてきて良く笑うようになった。

慧もジークから教わった闇龍の仕事を一通りは

こなすことができるようになった。




今日は北の国にしては珍しく暑かったので洞窟の近くの泉で水浴びをしていたのだった。

二人は、乾いた布で水を拭くと洞窟の道へと歩き始めた。

途中で慧がピタリと足を止める。

「どうした?ケイ?」ジークが不思議そうに聞く。

「ジーク・・・ちょっと一緒に来て。」

慧が足を踏み出すといつかのように茂みに道ができた。

2人の後をフィリオがついてくる。

茂みがきれるとそこは北の国には珍しい花が咲いていた。

慧は、ジークの手をひき真ん中にある泉に向った。

そこには、あの日と同じように石が2つ光っている。

その石の色は黒曜石のような色でジークは息をのんでそれを見つめた。

ジークは心でついに来るときが来たと思った。


「ジーク、一緒にこの石取ろう。」慧は無邪気に言った。

本当に、ファルからは銀の龍については何も聞いていないようだ。

「お前はこのような石を体に秘めているのか?」

「うん。」慧は無邪気に頷きながら言った。

「ファルと一緒に蒼い石を取ったよ。それで後であの石のことを聞いたらファルが言ったんだ。

 この石を取りに行くときは自分の大切だと思う人と一緒に行きなさい。って。

 だから、ジークと一緒にこの石取りたい。」

ジークはまじまじと慧を見つめた。金の龍の祝福を受けた子。

初めて慧の痣を見た時只者ではないとは思っていた。

「慧が・・心を決めた相手は?龍王かね?」

知っていたが確かめたかったのだ。

慧は黙って頷いた。ジークは自分の手を見つめた。

ありあまる魔力で恨まれ、塔に閉じ込められていた自分。

慧は、塔から自分を救いだしてくれたばかりか、

恨みで苦しんでいる自分を常に励まし癒してくれた。

慧のおかげで生きていて良かったと思ったのだ。

「ケイ・・お前は俺を選ぶのか?」ジークは静かに聞く。

きっと慧は事の重要性を知らないと思う。ファルが多くは語らなかったからだ。

この石は、龍王の花嫁が集めるという石だ。

そして、この石は各龍と慧を繋げる。

常に慧の状況がわかり慧と運命を共にするという石なのだ。

慧はジークに向って言った。

「ああ。ジークと強い絆で結ばれたい。ファルはこの石が強い絆を作ると言っていた。

 だから、私はジークと結ばれたいと思う。」

ジークは頷いて言った。

「一緒に取ろう。」

そう言いながら慧の肩を抱き一緒に黒い石に手を伸ばす。

すると、その石は二人の手から体の中に入り慧はそのまま後ろに倒れた。

ジークも軽い眩暈がしてフラフラする。

「ジークフリート、大丈夫ですか?」

低い声が下の方で聞こえる。

ジークは、声の方をみて目を見開いた。




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