眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-6-

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「これで、3日になるのか・・・。」

ジークフリードは、慧の枕元に立って言った。

慧は相変わらずスースー寝息をたてて眠っている。

フィリオも心配そうに時々慧の頬を舐めている。

「フィリオ、この子はいったい何者なのだ。」

ジークはそう言いながら慧の柔らかい髪を撫でた。

バウニャの森は、ジークの結界に結界を重ねた森である。

その中心にジークの要塞のような家がある。

ここまでたどり着くことができるのはたぶんジークの父くらいで

後はヤーリュに仕えているとされている闇の動物しかこの奥の

家までは来ない。


しかし、慧が来てから、あらゆる動物がこの家の周りに来る。

色彩の豊かな鳥達や白い鳥達も慧が眠っている部屋に入って来て

枕元に果実や森の木の実、南国の果実までも持ってくる。

対する闇の動物もこうして来る動物に危害を与えることはない。

その時、白い鳥が部屋の中に入って来た。

足に蒼い玉をつけていてそれには短い手紙が入っていた。




次の日、ジークフリードは黒い豹になって森の入り口まで来た。

そこには、白いマントを着た蒼い髪の男が立っていた。

「初めまして。私がケイの守護龍のファルム・リー・ソーリュです。」

「我もあの少年の守護をしなければならなくなった、ジークフリード・ルー・ヤーリュだ。

 こちらへ。」

ジークフリードは森の入り口の結界を一時解き、その男を近くの木陰に誘い

その周りに結界をかけた。

ジークフリードの視線はファルの胸元のチョーカーで止まり驚いた顔でファルを見つめた。

ファルもジークフリードの言葉を考えているようだった。

「私のことは、ファルと呼んでください。ジークフリード様。

 まさかと思いますが、ケイは貴方と龍の約束を交わしたのですか。」

「我のことはジークと呼んでいただいて構わない。恥ずかしい話ヤーリュの一族では

 我は邪魔な存在ならしい。」

「それは、その魔力の強さですか。拝見するところ、制御する装飾具をつけておるようですが・・・。」

ファルの目は、ジークの耳についている黒いピアスを追った。

「ああ。皮肉なことに、難しい仕事ばかり押し付けられ、

 それに成功するごとに魔力が強くなってしまった。

 数年後に龍王が花嫁を見つけると知っている一族の者は

 銀の龍に自分の息子をすることに一生懸命で

 我の力は邪魔だった。

 なので、数人が伴に闇の魔術をかけ私を捕まえ塔に閉じ込め衰弱死をさせようとしたのだ。」

「それは、ひどいことを・・・。」

「今あの少年を守らせているが、我には父から贈られ育てたクーニャがおる。

 それが、あの少年を迎えに行きその塔に連れてきた。

 不思議なことに誰も入ることのない結界をあの少年は破り鎖で押さえつけられた

 我のところに来た。

 その時の我は寝台に鎖で縛り付けられ、呪いの釘で心臓を半分だけ刺されていたのだ。」

「そうですか・・・だから、秘術を使ったのですね。」

「そして、あの少年は私に1つだけ条件を出した。」

「条件?」

「ああ、誰も恨まない。それで龍の約束をした。」



「そういうことですか・・だから闇龍の加護もあの子に与えられたと。」

「そうだな。」

「ケイは、予想以上ですね。既に3龍の加護ですか・・・。」

ファルの呟きにジークは目を見開いて言った。

「3龍だと・・そんなことはありえるのか。蒼龍と闇龍だけでも負担は大きいのに。」


本来龍人は、1つの龍の加護を受けているのが一般的で元々龍の約束と言うのは

人と龍の婚姻に帰来する。そして、龍と人との間にできた子供は15歳までは龍人で

その後、龍になるか人になるか選ぶことができるのだ。

稀に龍が先に死んで、また別の龍と婚姻を結び2つの龍の加護を受ける者もいるが

それは、体に負担がかかるので良しとされていない。

龍には、相性があり蒼龍と闇龍は決して相性が良いというわけではない。

それにもう1つの龍の加護がつくのはまさに自殺行為に近いのだ。


「ジーク、ケイは特別なのですよ。そしてこうなった以上貴方にも覚悟がいりますよ。」

「覚悟?」

「ええ。ケイが受けているもう1つの龍の加護。その龍は、金龍。」

ジークはその言葉に固まった。

「金の龍人など・・伝説の存在かと思っていた。しかし・・・そうなら辻褄が合う。」

「そして、ジーク。ケイは龍王の花嫁になる方です。

 実は私は彼の銀の龍だから加護しているのであって

 あの子は、私の父の祝福で蒼の龍人になったのですよ。」

「つまり、蒼の当主はあの少年を認めているということかな。」

「ええ。むしろ猫可愛がりに近いですよ。

 近い将来あの子といるとあなたも銀の龍の石を宿すことになるかもしれません。

 それまでに考えることですね。

 私は、あの子と別れるとき龍の誓約をして銀の龍になりました。

 あなたは私の仲間になりそうですので、今は許された例外です。」

銀の龍は公的な用事以外は話をしない。

その例外は龍王、龍の花嫁、そして金と銀の龍だけだ。

「ちなみにあの子は銀の龍の役割も誓約も知りません。」

「それは、何でだ。」

「あの子はそれに縛られてはいけません。

 私はあの子ならきっと伝説にすらないことを成してくれそうな気が致します。」

「それは?」

「全ての銀龍を揃えること。

 もし、あなたが銀龍になるのならあの子に

 あなたの伝えるべきことを伝えてやってください。」

「闇龍のか?闇龍の真は黒い。」

「ええ。あえて暗いことも全て。それがあの子のためになると私は思います。」

「わかった。銀龍のことは少し考えさせてくれ。今日は足を運んで戴いて礼を言う。」

「いいえ。ジーク。決心がついたのなら教えてください。」

ファルは綺麗に微笑みながらそう言った。




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