眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-3-

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「うへぇ〜〜。幽霊屋敷みたいだ。」

慧はそう漏らしながら塔の階段を昇りはじめた。

真っ暗で足元をみるのもやっとだ。


狭い階段なので落ちると怖い。

「俺・・元々こんな雰囲気苦手なんだよな。

 あ〜あ。こんなことなら、もっとDVD借りて

 ホラーに慣れておけば良かった。」

慧は、頭を振りながら言う。


あまりにも静かなので、声をあげないと怖いのだ。

「でも、ホラーって・・あの音楽が嫌なんだよな。

 今にも来ます・・来ます・・って。

 ホラーって音消してみるとどうなんだ?

 やって見たことないけど、やってりゃ良かった。」

「でも・・・静かなのも怖いよな・・。」

狭い階段は続く。



慧はどうにか塔の頂上までついた。

「何かいかにもだよなあ。」

・・・開け・・・

慧はそう念じながら扉に手をかけると扉は自然と開いた。

慧は持ってきた灯りを掲げる。

真ん中に大きなベッドがあり人が寝かされている。

深い濃紺の髪がベッドに広がっている。

その人の体は鎖で何重にも固定され、胸には黒色の釘が半分刺さっていて血が固まっていた。



「なんだって・・こんなことを・・・生きているのか。」

慧はベッドの近くに行き男の首に手をあて生きていることを確認する。

かすかに男の脈が感じられる。

慧はほっとしたように息を吐いた。


すると、男は目をうっすらと開け、慧を見て睨んだ。

「あいにく・・俺はまだ生きてる・・。お前は誰だ。」

慧は静かに口を開いた。

「私は旅の者。ここには、クーニャに連れてこられた。」

そう言いながらいつも持っている茶色のバックから水筒を出し

布に水を含めると男の口元を拭う。

「まだ、子供だな。この鎖や釘をはずすことができるか?」

男は、掠れた声で言う。かなりやつれた顔をしている。

「声を出して苦しくないの?」慧は意識的に子供のような感じで聞いた。

「いや・・・これくらいは。」男がそう言うと慧は男の顔も布で拭いはじめた。

「気持ちいい?」

「ああ。お前は私が怖くないのか?」

男は不思議そうに言った。



「なんで、怖いの。怖くないよ。それにその釘抜いてあげるからね。

 これでも、医術できるから。」

「小さいのにすごいな。でも、まずは鎖をはずしてくれ。」

男は眉間に皺を寄せながら言った。濃い紺色の目がギラギラ光っている。

「あなたは、助かったらどうするの?」

慧は小さな声で聞いた。

「復讐だ。復讐に決まっているだろう。目には目を。そんな簡単なこともわからないのか?」

「いけない。復讐なんてするなら、帰る。」

慧は首を振って言った。



「待て。金ならやる。我の庇護にもおいてやる。」

「何もいらない。あなたが復讐をせず恨むのをやめるなら助ける。」

「そ・・それは・・無理だ。」

慧は黙って塔の入り口に向った。

「待て・・・待ってくれ・・。」男は慌てていう。

慧は黙って足を止める。



「約束する・・・だから、ここから出してくれ。我はもうここに30年もいるのだ。」

「それでは、龍の約束を致しましょう。」慧はにっこりと微笑んで言った。

「お前は・・・人だろう・・。人は龍の約束はできない。」


男は慧を甘く見ていた。

ナバラーンで龍の約束というのは強い拘束力を持つ。

龍の約束と言うのは、約束をたてる龍が自ら血を皿に零しその血を相手の龍がのむ。

そうして、龍が約束を破ったときはそれこそ立っていられない苦痛の末に命を落とすのだ。



「大丈夫ですよ。私は龍人ですから・・ああ、手だけ自由にしますね。」

慧は、鎖を少し緩め手先だけ自由にすると手に小刀を握らせ旅行者用の皿を取り出しその下に置いた。

「くっ・・・。抜け目のない奴だ。」男はそう言い自らの手を小刀で傷つけ、血を落として言った。

「我は、ジークフリード・ルー・ヤーリュ。我の憎しみ・恨みを解放し我に受けた事の復讐を放棄する。」

そう厳かに言うと慧の持った皿の血が光った。

慧は、その皿の血を飲む。さすがに龍ではないから喉が燃えるように痛い。

「うっ。」

「ま・・待て・・・前に倒れてくるな。」

男の言葉と同時に慧は男の腹の上に静かに倒れこみ意識を手放した。



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