眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-2-

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ある日、「クーニャの大群だ。」と言う声が聞こえた。

慧が外を見ると白銀の狼のような動物の大群が見えた。

「荷物を守れ!!」

男達が大きな声で話している。


そうしているうちに周りをクーニャが囲んでいる。

「人間を贄として、差し出せ。」という声がどこからか聞こえると。

人間のいる馬車へ走る音が聞こえる。

「だめ!!」

思わず、慧はいつも持っている茶色のバックを肩から掛け馬車の窓からクーニャの群れに飛び降りた。


クーニャは慧を睨みながらウーウー唸っている。

慧はにっこりと微笑み、クーニャの方へ手を伸ばすと一番大きなクーニャが慧の手を舐め

慧に頭を下げた。

『金の龍の祝福を受けた方には牙を向けることはできません』

クーニャが静かになったのを見計らったように馬車は慧をそこに残し疾走して行った。

クーニャはそちらを向いて『愚かな・・・・』と呟やき、慧に言った。



『私の背に乗って下さい・・・一緒に来てください』

慧が大きなクーニャに乗るとクーニャは北の方に走り出す。

慧が今いた国ではクーニャは猛獣だが北の国では聖なる獣と言われているそうだ。

「綺麗な色。」慧がそう呟いてクーニャにしがみつきながら

顔をうずめるとクーニャは走りながらも嬉しそうに目を細めた。


途中で2回水を飲む以外は休まずにクーニャは群れで走る。

あんなに大群だった群れは今は30頭程度の群れになった。

夕方になるとクーニャは乾いた洞窟の中に慧を案内した。

洞窟には枯れ草が敷かれている。


いつものように森の鳥が慧に木の実と果実を持って来てくれる。

クーニャはその鳥を狩る様子もなく慧のそばにただ座っていた。

「君達は食べないの?」

『我々は交代で食べに行ってます。』とクーニャはそう答えた。

夜も更けてくると慧が横になった隣に守るように

クーニャが寄り添ってくれ、暖かい体温が伝わってくる。

背中にも別のクーニャが寄り添い毛布のように暖かい。

慧も安心して眠りについた。


やはり、朝からの出来事はまだ7歳になったばかりの慧には体の負担が大きかったらしい。

ぐっすり眠る慧の顔をじっと大きいクーニャは見つめる。

すると、大きなクーニャから銀色のオーラが出て慧の体をそっと包んだ。

慧はそれには気づかずに幸せそうな顔をして眠っていた。

明け方になるとクーニャはまた慧を乗せ大地を疾走する。



北に行けば行くほど気温は寒くなり慧もクーニャの背に張り付くようにしがみついた。

チラチラ雪もちらついてくる。

『もう・・少しでつきます・・・。』クーニャの声が聞こえる。

『ねぇ・・・誰かいるの?』

『ええ・・私の慕う人が・・・・もう私の声も・・届かなくなったけど・・・・』



クーニャは、広い森の中にある塔のような建物の前で止まった。

「ここ入るのも大変だと思うけど・・・。」

慧はクーニャの背から降りながら言った。

どう見ても、この塔は誰かに結界をかけられているらしい。

『あなたなら入れます。あなたは、金の龍の加護を受けた方。

 あなただけは、この塔に普通に入れます。

 あなたが入りたいと願うだけで・・・。』

慧は息を吸い込み塔の入り口のドアを回して押した。

すると、すっと開く。慧はクーニャに向って言った。

「こういうものは、願うと解けるの。」

『・・・ええ・・・でも簡単に解いてはいけません。

 気づかれてしまいますから』

慧は頷くと1人で塔に入っていった。

塔の中は陰気で真っ暗だった。



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