眠る君へ捧げる調べ

       第3章 君ノ眠ル地ナバラーン〜闇龍編〜-1-

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「う〜〜ん。」

慧は、隊商の馬車の中で目を覚ました。

まだ、外は真っ暗だ。

ケイの朝は早い。まだ夜が明ける前に眼を覚まし、瞑想をする。

これは、ファルと一緒にいた時からの習慣である。

まだ、周りはしーんと静まり返っている。

太陽が顔を出すと馬や家畜の様子を身にいく。

ファルから教えてもらった術は人だけではなく動物にも効くからだ。

『ケイ様おはようございます。』

草を食べていた馬が顔をあげて慧に言った。

『おはよう。ナン。足の違和感無くなった?』

慧は優しく馬の鼻を撫でながら言った。

『ケイ様ありがとうございます。』

馬は大きく頭を下げた。

この地の動物達は慧に礼を尽くす。

それは、慧が金龍の龍人だからである。

初めは恐れ多くて治療を受けれないと言う動物達を慧は自分の我侭を受け入れてほしいと説得した。



それから簡単な朝食を食べ患者をみる。

隊商には様々な家族が参加し移動しているので病人も結構多いからだ。

そこで、病気から怪我全てを見る。

ここでも身分差別が激しい。

初めに訪れるのは、隊商の上の方の地位の患者だ。

その患者には、高価な薬を使っても良いとされている。

もちろん魔術もだ。

しかし、慧が子供で龍人だとわかると見下した態度を取る者もいる。



その後、それ以外の龍族と龍人を診る。

おもに使われていて気楽に生きている龍族で

隊商だけに龍族の種類も多い。

そのような者はきちんとした給料をもらっているので

高価な薬には手が届かないがそれ相応の治療が望まれていた。

そして、ナバラーンの龍人と言うのは龍の伴侶かその子供だ。

その他の方法で龍人になるには、龍と心を通わせその精を体に受けるか、

当主の祝福を受けるか龍の約束をするしかない。

龍の約束と言うのは、龍を拘束する約束で、一度した約束は生涯続く。

その約束を破るとその龍は死に絶えると言う強力なものなので、龍の約束をしようと

言う龍はあまりいないのだ。

子供は、15歳までに人になるのか龍になるかを決めることができるらしい。



夕暮れがせまり、馬車が泊まると、慧は人がいるエリアに行き

診療する。この時持って行くのは自分で採った薬草だけだ。

隊商の薬は人間に使うことを許されていない。

なので、慧は朝早くか夜遅く森などに行って薬草を採り薬を作っていた。

人間の地位は低く、使い捨てに近い状態だ。

龍達は馬車の中の部屋で休むことができるのだが、人間達は粗末なテントしか

与えられていない。なので、体調も崩しやすいのだが隊商によっては

体調を崩すとその地に置き去りにする所もあるのでかなり調子が悪くなるまで

申告をしない者も多い。

聞くと、隊商の仕事につくと人としては給料が良いので働けるうちは

ここで働くと思っているらしい。


慧は代金を取らずに治療をしているが、やはりこの中でも自分は異質だと

思われていることに居心地の悪さを感じた.

厳密に言うと慧も人間に近いのだが小さいながらも医術や医療魔法を使えるので

隊商のなかでは龍族と同じ待遇になり給料も貰っている。、人にしてみると

龍と同じ存在らしい。なので、慧は治療はしてくれるが恐れるべき存在なのである。


一方、龍族の中でも龍人はとても少ない。

この隊商でも2人しかいない。

龍人は龍がいないと龍の中でも受け入れられない。

庇護する龍の力の強さが龍人に大きな影響を与え、龍人はその龍の使える魔術を理論上は使うことは

できるが使える人はあまりいない。


慧の場合は、蒼龍の加護は、蒼龍の当主であるリュークから受けているので

庇護する龍の力は蒼龍髄一である加えて、金龍つまり龍王の庇護により溢れるばかりの

エネルギーを与えられているので龍と同様に魔術を連発しても大丈夫なのである。


しかし、中には慧のことを良く思わない龍族もいて、見えない所で食事を取られたり、

わざとぶつかってきたり意地悪をするものもいた。


それでも、空の鳥が慧を気遣って木の実や熟れた果実を持ってきてくれるのであまり困らなかった。

「俺が大人じゃなければ挫けてるよね。」

慧はそう思いながら苦笑いした。



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