眠る君へ捧げる調べ

       第2章 君ノ眠ル地ナバラーン〜蒼龍編〜-8-

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「ファル様。ケイ様。ありがとうございました。」

「気を確かに持っていらっしゃればご主人様はきっと良くなりますよ。」

ファルが自分の白いマントのブローチをとめながら言った。

「お大事に。」慧は茶色のカバンを持ちながら言う。

慧がナバラーンに来て1年半がたった。

ファルは当初の予定通り、2ヶ月あの森にいてそして残りの10ヶ月医師として

各地を旅をした。慧はファルの助手をやりながら医師の仕事を手伝った。

ファルは生まれた時から龍族の中にいたので龍族中心に治療していたが

慧は、自分ができる治療は人も龍も分け隔てなく接した。



最初の1年はファルに手取り足取り教えてもらっていたが

最近は自分でも癒しの術や薬草を調合できるようになった。

本来慧は魔法を使えないのだが、リュークが初めて慧とであった日、

慧に蒼の龍の祝福を与えたので蒼の魔法を使えるようになったのだ。

そのおかげ?で、慧の肩には金の龍の隣に蒼い龍の痣がついた。

ファルは慧を可愛がっていたが、過剰に甘やかすことはしなかった。

何しろ子供の体なので体調を崩すことは多くてファルを困らせたが

心配をかけたのはそれくらいであった。



驚いたことに慧は物事を一度聞くと全て覚えるようになっていた。

これは、金の龍の加護によるものらしい。

それに加え一生懸命に勉強をしたので、ファルは自分が最近父から受け継いだ

蒼の秘術までも慧に教えた。



慧が寂しくしていると、時にはリュークが遊びに来てくれた。

リュークの腕のなかはとても心地よく、小さいときに亡くなった父に似ていたからか

いつも抱えられると眠ってしまう。

そして夢では、いつもリューゼと出会い

リューゼの膝に抱えられながら、いろいろな話をした。。

いつも、リューゼは優しく慧の話を聞いてくれ、

そして、慧が悩んでいるときはそれとなく道を示してくれた。



ファルも銀の龍について調べ学んだ。

正直に言うと自分でもこんなに多くの制約があると思っていなかった。

龍の当主達の唯一が龍王であるように

銀の龍の唯一は龍の花嫁である。

本来銀の龍は花嫁と共に石を探したものなのだが、全ての種族の銀の龍を

揃えた花嫁の記録はない。

史書によると、成婚時に龍の当主たちが銀の龍を一族から定め、補うという。

銀の龍は、花嫁に誓いをたててから純潔を貫き、誠実であることが求められる。

一族との繋がりを切り他の銀の龍と家族として暮らす。

唯一同種の龍との交流が許されているのは金の龍の側近である当主だけである。

後は仕事上や公では会話を許されているが私的な全ては花嫁に捧げなくてはならない。

花嫁との繋がり、他の銀の龍との繋がりが強固なほど

国が発展すると言われている。



ファルはあえて慧に龍の花嫁のことは教えなかった。

そして、自分が銀の龍であることは教えたが詳しいことは教えなかった。

慧は優しいので自分にファルの一生を捧げるという言葉に傷つくはずで、

それがこれから慧が生きる枷になって欲しくなかったからだ。



龍の花嫁としても慧は異質である。

こんなに小さな年齢で現れた花嫁の記述はなかったし

まして、金の龍人という存在すら無かった。

なので、慧がどんな能力を持っているかはファルにもわからない。

そして、リュークも驚いていたが夢で龍王と会い話をするなんていう

ことは聞いたこともない。

だからこそ自分はきたるときまで慧を影ながら見守ろうと思っていた。




慧は慧でそろそろ、1人で旅を始めなくてはいけないなと思っていた。

それは、ファルの修行ももう少しで終わることも知っていたし、

この世界をまた違う角度で見る必要があると思っていた。


ファルは、ある夜宿屋に行くと慧に言った。

「ケイ。そろそろ自分の力を試してはどうですか?

 もう技術的には君に教えることはないのですよ。

 だから、ケイの力を試してみるために隊商にでも入ってみると良いと思うのですが。」


隊商、この世界のそれぞれの国を馬車で横断し交易するものがいた。

隊商には医療の知識のある者は歓迎される。

「ファル・・そうするよ。今までありがとう。」


慧はファルを見あげながら言った。

最初に出会ったのがファルで良かったと思う。

ファルは蒼龍。知と癒しの龍だけあり、失敗しても声を荒げることも無かったし

わからないところはとことんまで教えてくれた。

特にソーリュ秘伝の魔法などは力のコントロールが難しく

倒れることもあったが、それでも根気よく教えてくれた。



「ケイ・・でもこれが永遠の別れではないのです。

 私はいつでも石を通して君の感情や状態がわかります。

 だから、何かあるときは一番最初にケイのところに駆けつけます。

 そして、これが君と私の繋がりの証ですよ。」

そう言って慧にいつもはめている指輪を渡した。



「ファル・・これは、大切だと言っていた・・・。」

慧があわてて言うとファルは優しく微笑んだ。

「大切だからこそ、大切なケイにあげます。私の祝福を。」

そう言ってファルは慧の額にキスをした。

すると、指輪にサファイヤのような石がはまった。

実はそれが銀の龍として花嫁に誓願をたてる1つの儀式だったのだが

ファルはそれを慧に気づかせなかった。




次の日、ファルは慧の為に街で買い物をしてくれ

医師の道具・薬草も分けてくれ、知り合いの隊商も紹介してくれた。

隊商の親方は以前ファルが病気を治したと言う黄龍だそうだ。

ファルの弟子ならと快く慧を迎えてくれた。

別れの朝、ファルは白いマントを慧に羽織らせた。

「これは?」慧は不思議そうな顔をして言う。

白いマントは医者の象徴だからだ。

「父上から送られてきたマントです。慧これで、君は蒼の当主が認めた

 医者ですよ。」

「いいの?」

「ああ、父上も認めたからこそこれを送ってきたのです。」

ファルはそう言いながら皮袋に金貨を入れて渡した。

「ケイ、これを持って行きなさい。」

「ファル?」

「これは、ケイが助手として働いた分です。持って行きなさい。」

慧は嬉しくてファルに抱きついた。

「ありがとう。ファル。リュークにも手紙を渡してね。」

慧は昨夜リュークに手紙を書いていた。

「ああ。必ず渡しますよ。」

「そろそろ行くぞ。」隊商の男が言ったので、慧は馬車に乗り込んで窓から身を乗り出した。

慧はファルの白いマントが見えなくなるまでずっと手を振り続けた。


「ケイ・・・私の唯一の方。寂しくなりますね。」

ファルの頬を涙が流れた。その胸のチョーカーは蒼い色は混ざっておらず

銀色にキラキラと光っていた。



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