眠る君へ捧げる調べ

       第2章 君ノ眠ル地ナバラーン〜蒼龍編〜-7-

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「ファル・・・ごめん・・・。また心配かける。」

慧は真っ赤な顔でベッドに横になっていた。

ファルが慧の額に手をのせる。

「気持ちいい・・・。」

「ケイが熱が高いからですよ。本当は術を掛けた方が楽になりますが、

 自然治癒力が落ちます。特に今のケイは体を作る大切な時ですから

 ほら、薬湯を飲んで寝るのですよ。」

ファルが飲みやすいように薬湯を少し冷まして言った。

「ありがとう・・・ファル。」

慧は小さな手で器を持って薬湯をのんだ。

「ケイ、頑張る気持ちはわかりますが無理はいけませんよ。」

ファルが優しく言った。

「うん・・・。」慧はそのまま眠り始めた。

「まったく・・この子は・・。」



慧と暮らし始めて半年が過ぎた。

2人は今蒼龍の国、アシュタラで医療行為をしている。

医療行為の対価は金ではなく、宿や食事だ。

初めは何もわからない慧だったが、言葉も流暢になり

治療や医療の術も少しずつ使えるようになった。

その影ではすごく努力をしていることをファルは気づいていた。

しかし、何分5歳の体である。

なので、月に1度は熱を出して倒れる。

どうやら、この世界での食事も慧に合わないらしい。

あの森の家では慧自身が作っていたのだが今はどこかの家で食べることが多い。

人というのもさることながら、慧は5歳にしては華奢な体をしているので

疲れやすいようだ。

それでも、時には徹夜をして治療に当たるファルの側に慧はずっといた。



「ファルム様・・。何も無いですがこの果実をお子様に・・。」

そう言いながらその家の女が林檎のような果実を差し出した。

対外的には、才能がある慧をファルムが養子に取り旅をしていることにしているのだ。

「ありがとうございます。恐れ入りますがもう一晩泊まらせて戴けますか?」

「ええ。遠慮なさらないでください。主人の怪我も良くなりました。

 子供達がケイ様を心配して朝摘んできたのですよ。」

「ケイは、果物が好きなので喜びます。ありがとうございます。」



ファルムが果物を受け取ると女は部屋を出て行った。

慧が目覚めると枕元でファルは本を読んでいた。

ファルは慧を着替えさせると、また、ベッドに入れ、

さっきの果実を慧に食べさせる。

見かけは林檎だが味は桃のような味だ。

「おいしい・・ファル・・ありがとう・・。」

慧はそう言ってベッドに横になった。

充分に睡眠をとったので眠くなさそうだ。



「ケイ・・大丈夫ですか?」

「うん。」何だか目がちょっと涙ぐんでいる。

「どうしましたか?苦しいですか?」ファルが心配そうに言う。

「ううん。嬉しいんだ。」

「どうして?」

「こうして、看病してくれる人がいて。」

慧は小さく泣きはじめた。



急に龍星を思い出した。

龍星と一緒に住んで少したった時、慧が風邪で熱を出すと甲斐甲斐しく看病してくれた。

一晩中そばにいてくれて、目を覚ますと冷たい飲み物や桃をむいてくれた。

「龍星さんと住んだのは少しだけだったけど・・それ以来だから。」

ファルは布団ごと慧を抱きしめた。

「ケイ、私は側にいますよ。」

そう言いながら優しく背中をポンポンと子供にするように優しくたたく。

「ファル・・あり・・・が・・・」

慧はそう言いながら眠りについた。

「ケイ、私の血にも龍王様の血が流れているのですよ。

 父上の膝の上のように会えないかもしれませんが、良い夢を。」

ファルはそう言いながら、慧をベッドに戻すと額にキスをした。



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