眠る君へ捧げる調べ

       第2章 君ノ眠ル地ナバラーン〜蒼龍編〜-5-

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「ケイは5歳のわりに大人びていると思わないか?」

「ええ。考え方もしっかりしていますし・・・頭も良いです。

ケイは低年齢化したのですね。」



「ああ。そうだろうな。」リュークは頷いた。

「どういうことです。」

「龍王は百年の眠りの中で異世界に行き、恋をする。

 そして、向こうで本当に恋をすると異世界で死ぬ。

 死んだ時、こちらの時のケイの寿命が始まる。」

「こちらの時の寿命?」


「ああ、ケイの世界と時間の流れが違うのだ。

 ケイの世界の5日はこの世界の1年。

 だから、この子は龍王が亡くなって25日目に私のような

 側近の力でこの世界に飛ばされたのだろうな。」


「じゃあ、ケイは父上が?」

リュークが首を振って言った。

「いや・・ケイを飛ばしたのは、スーリュだ。」

「スーリュ・・・偏屈なスーリュが?」

「まあ。そう言うな。

 この子を認めたのだろう。そして、ケイは時空の狭間で龍王に会ったはずだ。」

「龍王さまに?」


「そこで問われることは決まっている。この世界に来るのに欲しいものだ。

 例えば知が欲しいと言えば蒼龍の龍人になるというふうにな。」


「でも、ケイは話にすらない金龍の龍人ですよ。これはどういうことなのですか?」

「そこで、この子は何も願わなかったのだよ。たぶん、願ったのは龍王なのだろう。」

「と・・言うことはケイは龍王の花嫁なのですか?」


「ああ、たぶんそうだ。しかし、今からケイが20歳になるまでの生き方によって

 そうならない場合もある。」

「それは、どういうことなのですか?」

「20歳になるまで、ナバラーンを愛し龍王を愛し続けなくてはならない。

 それは、蒼龍だけでなく全ての存在を・・・。恐らく人も・・。」


「龍人はまだ現れるのでしょうか?」

「それはどうだろうか。

 ひょっとしたら、お前と同じように石を得るものもいるのかもしれない。

 しかし、金の龍人が現れることはない。」


「私はどうしたら良いのですか?」

「ファルム、お前は間違いなく、花嫁の側近の龍である銀の龍になるだろう。

 私と同様に蒼龍の代表になったというわけだ。

 蒼龍の知恵そして必要だと思う技術をこの子に伝え、

 常に自分を磨くことだ。

 そして、この子との結びつきを深め、務めを果たしなさい。」

「銀の龍?」

「ああ、銀の龍。私の母になる前龍王の妻は我々の卵を産むと謎の死を遂げているから

 銀の龍も運命を伴にした故、今はその存在が伝えられていない。」


「父上。銀の龍とは?」

「我には父が2人いるのだ。1人は前龍王。そして前蒼龍の銀の龍。」

「つまり、銀の龍と花嫁は龍王様と父上達のような関係なのですか。」


「ああ。我々は同じ血が混ざった兄弟のようなものだ。

 しかし、銀の龍の結びつきは血ではない。

 血の繋がりがない分、銀の龍は心で花嫁と結びつくものとされている。。

 私達の母は、結びつきの悪い銀の龍があったから

 卵を産んだ時点で力尽きたという意見もある。

 本当は息子と言えどもこの話をすることは良くないことやも知れぬ。


 しかし、我は母がいないと言う辛さを新しい金龍にさせたくない。

 そして、龍の花嫁だけでなく銀龍にも生きていてほしい。

 お前は、大切な私の息子だからな。

 だから、今こうして傍にいるうちに信頼関係を築き結びつきを強めるのだ。」

「父上。」

ファルは驚いたように父親の顔を見つめた。


幼い時から近くにいなかった父が自分のことを気にかけてくれていたなんて思わなかったのだ。

「ファルム、確かに私は父親としてお前達のそばにいなかった。

 しかし、お前達の成長記録や手紙は全て大切に取ってある。

 私が片親をなくしている分、尚のことお前達が愛しく感じているのだよ。」

リュークは優しく言った。


ファルは泣いていた。

幼い頃から厳格で近寄りがたかった父がそのように愛してくれていることを知らなかった。

「父上・・申し訳ございません・・・私は父上の気持ちも知らずに・・。」

「良いのだ。ファルム。だからこそ、ケイを育て導くはお前の役割だと心得よ。

 慧を1人で独占するのではなく父のように兄のように導き、

 そして蒼龍の術、心を伝えるのだ。」


「しかし・・父上・・蒼龍の術は、蒼龍か蒼龍の龍人でないと・・。」

「ファルム・・これを見るが良い。」


リュークは慧の袖をめくると金の龍の痣の横に蒼い龍の痣が見えた。

「父上が祝福を・・・?」

「ああ、王の側近の我々の祝福・龍の約束を交わした者はその龍の力を使える。

 だから、私が祝福を与えた。

 蒼龍の力があるとこの子が生きることに大きな徳を与えるだろう。

 それが、ケイが将来ナバラーンを導く礎になるはずだ。

 私はお前に蒼龍の秘術まで伝授し、頃合を見てケイに伝えるとよい。」


「しかし・・・秘術は、私の位では・・・。」

「ああ。ルーの位では許されておらぬ。しかし、銀龍にはリーの位が与えられ花嫁が

 龍王に嫁ぐと私と同様の地位が与えられる。跪け。ファルム。」

リュークは厳かな口調で言い、跪いたファルムの頭に手を翳した。


「ファルム・ルー・ソーリュ。汝の地位を取りあげ新しくリーの地位を授ける。

 これより、ファルム・リー・ソーリュと名乗るが良い。」


ファルは厳かに頭を下げた。

「確かに承ります。」

その言葉は短いながらもファルの誓いであった。




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