眠る君へ捧げる調べ

       第2章 君ノ眠ル地ナバラーン〜蒼龍編〜-4-

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「ファル、いってらっしゃ〜い。」

朝、慧はファルを見送ると小屋に戻りパンを作る。

それから、小屋の中を掃除すると

パンを竈のオーブンに入れて、本棚から本を取り出し

小さな黒板を持って外にでる。


慧は、基本的に1人で勉強する。

本のわからないところは黒板に書きとめ帰ってきたファルに聞く。

この世界のことの多くを教えてくれたのは

肩や近くの木にとまっている鳥達だ。

「ケ〜〜。大変・・・蒼い龍が来るよ。」

そう言って鳥たちは飛び立った。



・・・ファル帰って来るには早すぎるしなあ。


 何だか空が暗いから干している薬草に布かけなきゃ。・・・

慧は本を閉じると薬草を干しているところに行き

布をかけ布が飛ばないように石で押えると小屋の上に大きな龍の影があった。

『やっぱりファルじゃないや。』

龍は、ファルと同じように静かに小屋の後ろに降りながら人型になった。



蒼い目と少しウェーブ掛かった蒼い髪に金のチョーカーをつけている。

慧は、驚いたように目を見開いて男を見あげてにっこり笑い、近寄って行くと

「ファルのおとさん。?」と男を見あげて言った。

男は驚いた顔をして慧を見下ろすとにっこり笑って慧の頭をグシャグシャなでた。




夕方・・ファルは、いつものように薬草をたくさん持って小屋の後ろに降り立った。

いつもは元気に走って出てくる慧の姿がない。

家には小さな灯りがついているがしーんとしている。


ファルは不思議に思って小屋の中に入ると小屋は静まりかえっていたが

気配がする。

ファルが居間に足を踏み入れると低い声がした。

「ファルム・・・ケイは寝てるから静かにしなさい。」

ファルは驚いた声をあげて言った。


「父上・・・。」

居間の真ん中のソファには父が座りその腕の中には慧がいる。

慧は手に父の金のチョーカーを握りすやすやと眠っている。

「私になつく子供なんていないかと思っていたよ。」

確かにそうだ。当主と言えば一族の仲で孤高な存在であり、

当主は龍王に忠誠と愛情をかけ運命を伴にする。


当主が一族の元に戻るのは、年に数回でその間に数人の妻を娶り子を作り

治める国の案件を片付けるためであり、その他は龍王の住む王城にいることが多い。


子を育てるのは妻と前当主の息子達や兄弟達で

ファルにとっては叔父にあたる人が父親の代わりとして愛情を注いでくれた。

なので、ファルにとって父リュークは、父なのに他人のような存在であった。


その父の膝の上で慧はぐっすりと眠っているばかりか

当主の象徴といえる金の龍玉を握っているのだ。

「ち・・・ちうえ?よろしいのですか?」

「ああ。気にするな。この子は、これを触ると安心できるだろうから。」

リュークは目を細めて言う。


「なぜです?」

「この金の玉はこの子が愛する方に繋がっているからだろう。

 ごらん、すごく幸せそうに眠っている。」

慧は微笑みを浮かべて眠っている。


「気立ても良い子なのだろうね。私のために菓子も作ってくれたよ。」

目の前のテーブルにはクッキーとお茶が並んでいた。



「ところで、ファルム・・・蒼い石を見つけたようだな。」

リュークは何事もないように言う。

「はい。」

「ケイは、何歳かね。」

「5歳です。」

「そうか・・・ファルム・・蒼い石の伝説は知っているのだろう?」

「ええ。知っています。龍王様の花嫁と選ばれし者の話しですね。」

「ああ、そしてこれから話す話は誰にも言ってはならぬ。よいな。」

ファルは黙って頷いた。




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