眠る君へ捧げる調べ

       第2章 君ノ眠ル地ナバラーン〜蒼龍編〜-2-

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「ファル・・・お帰り・・。」

「ただいま戻りましたよ。・・・ケイ。」

蒼い髪の男が籠を背負って小さな家に入ってくると、

小さな慧は、嬉しそうにパタパタ走りよりながら言った。

「良い子にしてましたか?」ファルは慧の頭を撫でながら言った。

慧はコクリと頷くと小さな戸棚から皿を取り出し

暖炉にかけた鍋からスープをよそう。



「これは?」ファルは不思議そうに皿を見る。

「たな・・あるもの・・・あと・・ヤギ・・・乳もらった。」

「ヤギ?」

「うん・・ヤギ・・遊び・・・くる。」



ファルは、小さなテーブルに座ってスープに匙をつける。

森は暗くて寒いので、温かいスープは何よりのご馳走なのだ。

「ケイ。すごいですね。」

「よかった・・。」

「おいしいですよ。」

「なに?」

”おいしいですよ。”

慧はまだこの世界の言葉に堪能ではない。

「おいしい・・」慧は嬉しそうににっこり微笑んだ。

「しかし、ヤギと仲良くなったのか・・・良かったですね。」

ファルは微笑みながら慧の頭を撫でた。



この世界に来て一週間がたった。

この世界には、年齢を計る機械があり、それに乗ると慧は5歳だった。

慧は、初め小さくなった自分に驚いた。

それでも元から楽観的な性格なので「まあ・・いっか。」

と気分を切り替えることにした。

慧に取って一番辛いのは、龍星と20歳まで会えないことだった。

それでも、ここで頑張って生きていくと確実に会えるのだ。

夜寂しくて魘されていると

ファルが自分のベッドに慧を運んで優しく抱きしめてくれたので寂しくなくなった。



ファルム・ルー・ソーリュ・・・慧を助けてくれた男の人はそういう名前で、

1年のうち、2ヶ月をこの森で過ごすそうだ。

この森は、薬草の宝庫で2ヶ月ひたすら薬草を集め薬を作る。

そして、その薬を持って10ヶ月、医者として旅に出る。

それを5年続けると一族に一人前の男として認められるそうだ。

ファルは(ファルが通称らしい)既に3年この生活をしていて

後2年この生活を送らなければいけないらしい。

話をしてみると割としっかりしている慧をファルは気に入り

誰も身寄りがいないなら一緒に住もうと言ってくれた。

自分から進んで仕事をする慧は小さいながらも

ファルのいない間に洗濯したり掃除したり料理したりしている。


ただし、体力があまりないのでたくさんのことはできないが・・。

慧は、ファルのどこから来たの?という問いに「違う世界」と答えたが

自分の実年齢や今までのことは話さなかった。


ファルもあまり追求してこなかったが書物で異世界の者はこちらに来る場合低年齢化すると

読んでいたので慧もそうではないかと考えていた。

慧が来た次の日には関係がありそうな本を何冊か取り寄せて読んだのだ。



「ヤギ話したよ。」慧が嬉しそうに言う。

「話した?」ファルが不思議そうに答える。

「この森の奥に秘密の場所・・あるって。明日一緒行ってもいい?」

「明日一緒にでしょう?」ファルは慧に言葉を教えている。


慧は頷いて言った。

「うん。ヤギと一緒に行ってもいい?」

ファルは少し考え込んだ。ヤギが話すなんてこちらの世界でも常識ではないのだ。

「明日、私も行っていいですか?」ファルが言うと慧が顔を輝かせた。

「ファル?おやすみ?」

「ええ。明日はおやすみにしようと思いますよ。

 私も慧と時間過ごしたいですねぇ。」


慧は嬉しそうにファルを見あげて言った。

「じゃあ・・頑張って弁当つくる!!」

「おやおや・・楽しみにしていますね。」ファルは慧の頭を優しく撫でて言った。


次の日の朝、慧の言ったとおりヤギが小屋の後ろに来ていた。

慧が近くまで行くとヤギは慧に頭をすり寄せる。

「ファルも一緒で良いって。」慧はにっこりと笑って言う。


「ケイ。転ぶといけませんから手を繋ぎましょうね。」

「うん。ファルありがとう。」


この体になって一番困ったのは体力がないことだ。

少し歩くと疲れるからあまり遠くまで行けない。

だから、ファルと手を繋ぐとなぜかとてもほっとした。



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