眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-9-

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「エドワード、人数が多いから今日は

 シートに直接座ろう。」

慧がそう言ったので、中庭に大き目の布が広げられ

その上にたくさんのクッションが置かれ、

美味しそうな菓子や果物が並んだ。


ケイがサイシュンとアルに囲まれて座ると

その前に3人の男が、横にエドワードとメリッサとテリオが座った。



「あの・・・自己紹介させていただきます。

 私は、ユーリ・ライナスと申します。

 一応身分は伯爵です。」

柔らかいブラウンの髪の壮年の男が言った。

目つきはどこか鋭い。



「私は、マーチン・ロウェルと申します。

 身分は男爵です。」

こちらは薄い金茶色の髪をしている。

とても優しく微笑む男だ。



「私は、キース・ライナスと申します。

 ユーリの弟でエドワードの幼馴染です。」

確かにユーリに似ているが顔立ちは優しい。

キースは嬉しそうにエドワードに笑いかけた。

「ここでは、敬語はなしにできませんか?

 せめて、少しくだけた感じで話しませんか。」

慧がそう言った後にサイシュンとアルがそれぞれの自己紹介をした。




慧はその他に貴族の制度やナバラデルトの歴史について

いろいろな質問をしたのでそのお茶会は有意義に過ぎていった。

ユーリとキースは、貴族制度とナバラデルトの政治に詳しく

マーチンはナバラデルトの歴史と人のマナーに詳しいので

早速翌日から授業を受けることになった。








「じゃあナバラデルトには城は1つだけだったの?」

「ええ。そうですよ。この人の城は5代前の妃様が建てたのです。

 住居地区も今のように龍の地区と人の地区に分かれたのは

 その時からです。」

「じゃあ、何か問題があってこの城を建てたの?」

「確かに人は弱いし、例外を除きまして寿命は80歳から100歳です。

 一方、龍は人より長命で例外を除きまして200歳から300歳生きます。

 龍はそれぞれの特性もありますが自然に人より秀でることとなります。

 そうなると当たり前のように要職は龍が独占することとなります。

 それが人にとっては不満だったようです。」



「なるほどね。それから貴族制度が今のようになったと・・・。

 ユーリは、この制度どう思うの?」

「一概に悪いとは言えません。

 貴族の中には真面目に仕事をしている者もありますし・・・。

 しかし、毎晩パーティばかりをしている貴族もいるのは確かです。」



「人々の暮らしはどうなの?街に出てみたんだけど

 貧しい人もいるみたいだね。学校や公共機関はどうなの?」

「それが・・・あまり整備されていません。

 医者は貴族の為のもので庶民は民間療法に頼っている者も多いようです。

 学校も特に無く、文字を書けない者もいます。」



「それで、ユーリは何か打開策を考えた?

 この制度をぶっつぶそうと思っているの?」



ユーリは慧の過激な発言に驚きながらも口を開いた。

「貴族は贅沢に慣れてしまった者も多く、

 私のように疑問を感じている者は少ないです。

 しかし、中には現状を変えたいと思っている者もおります。」




「そう。じゃあ、ユーリとキースでその人たちをとりまとめて

 私に紹介してよ。そして、具体的にどこを是正すればよいのか

 きちんと話し合いをしておいて欲しい。

 1年はあっという間だからね。

 そして全ては内密に・・・。

 どうせ、変革の為に立ちあがろうとするなら、確実にね。」

「知ってらしたのですか?」

驚いたようにユーリが言った。



実際ユーリはレジスタンスを起こそうと密かに準備をしていたのだ。

それはエドワードも知らないはずなので慧が知るわけがない。

「何となくだけどね。」

慧はそう言って微笑んだ。

着々と慧の計画は進んでいる。

しかし、お茶会の事件で貴族側も慧を疎ましく思ったのは確かだった。





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