眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-8-

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「皆様の言動がとてもおかしくて・・・。」

慧は笑いながら続けた。

「このナバラーンに生を受け龍の恩恵を受けていない人が

 いるのでしょうか?

 まず、このナバラデルトを守っている紅龍達です。

 お魚食べますよね?

 海の生き物は翠龍が管理しております。

 ああ、公的書類は白龍が作っておりますし、

 人の医者でも学ぶのは蒼龍の大学や研究所でしょう?

 特に贅沢品は、黄龍が運んできたものでしょうし、

 緑を豊かにしているのは桜龍や精霊の力でしょう。

 そして、ナバラデルトに強固な結界を張っているのは

 闇龍の皆様でしょう。

 そして、紫龍の歌などで心を癒しておられる

 方がいらっしゃるでしょう。

 そして、このナバラーンを護っているのは龍王様。

 龍王様も龍でしょう。

 なのに、なぜ野蛮なのでしょうか?」

レラやリセは、悔しそうに唇を噛みロゼは怒りのあまり立ちあがって

「気分が悪くなったので失礼する。」と供と一緒に出て行った。

その後を何人かの男が追った。

レラもリセも同じように立ちあがって退席した。

同様に人が数人追って行った。


「カイ様・・申し訳ございません。」

先ほどの神官が頭を下げて言った。

「謝る必要は無いです。カイと言う名も気に入りました。

 ありがとうございます。」

慧は両手を胸の上で重ね左足を一歩引いた神官特有のお辞儀をした。

神官は驚いたように慧を見た。

実は慧のお辞儀はセントミリュナンテの神官専用の礼で

セントミリュナンテは高位の神官が修行する場なのである。

「滅相もございません。神官は祈ることしか出来ませんが

 貴方様の幸運をお祈りさせて戴きます。」

神官はそう言いながら右手を胸の上にあて左足を後ろにぐっと引き

その場で跪くと深々とお辞儀をした。

これは神官の高位の者に対する礼である。

慧が軽く頷いて「ナバラーン・ア・レ・オーン。」と祝福の言葉を言うと

神官は再び深々とお辞儀をして退室した。



「カイ様。貴方のお世話をすることとなった方を紹介致します。

 カイ様の意向を従僕から伺った上で選ばせて戴きました。

 そこで、この3人の方が適当と思われました。

 尚、我々役人も中立の立場なのでご了承ください。」

役人風の男が淡々と言い、後ろを振り返って言った。

後ろには3人の男が立っていた。

慧は、役人風の男に言った。

「あの、お名前聞いてもよろしいですか?」

「失礼致しました。私は、マクラインと申します。」

「マクラインさん、この方達の紹介で今日のお茶会は終了なのでしょうか?」

「ええ。そうです。本当は花嫁候補の皆様への注意事項があったのですが

 このようなことになりましたので、文書にてお知らせすることになります。」

「それなら、私も退室してよろしいですか?

 そして、私の部屋でお茶会の続きをしながら、友好を深めたいのですが

 いかがでしょうか?」

慧がそう言ったので、ティルームでのお茶会は終わりとなった。

慧が3人の男と部屋から出ると、エドワードが心配そうな顔をして待っていた。

「エドワード、いつものように部屋でお茶を飲みたいんだ。

 今日は、天気が良いから外にでてお茶を飲もう。」

「かしこまりました。それでは、部屋にご案内してから用意致しますね。」

エドワードは優秀な従僕らしく頷いて言った。

部屋に戻ると、サイシュンとアルが慧のにこにこ微笑んだ顔をみて

ほっとしたように息をついた。

「まあ、皆様はそこの椅子に座って待ってくださいね。

 サイシュン、昨日焼いていたクッキーお茶菓子に食べたいな。

 アル。テリオとエドワード手伝って。

 メリッサ、果物は用意しなくていいよ。

 私が調達するから。」

慧はそう言いながらテラスに出た。

すると、色とりどりの鳥達が慧の肩に止まる。

鳥達は慧が何かを話しかけるといっせいに羽ばたき四方に飛んで行った。

少したつと鳥達が口に木の実や果実を銜えて持ってくると、

慧のそばのテーブルの籠と鉢にいれはじめ、

褒めてと言わんばかりに慧の肩や近くの枝にとまる。

唖然としてその様子を見ていた3人の男にアルが声をかけた。

「ケイ様が調達する果実は美味しいし、珍しいのですよ。

 皆様は運が良い。」

「それよりも・・なんと美しい姿なのでしょうか・・・。」

1人の男がしみじみと言うとアルは自分が褒められたように

嬉しそうな笑みを浮かべた。





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