眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-7-

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「メリッサ・・・私・・男だけど・・?」

慧が戸惑いながら言うとメリッサは手を動かしながら言った。



「そんなの存じあげております。

 本当は、これに宝飾品を着けたいくらいなのですよ。」

「宝飾品?」

慧はプルプルと首を振った。



「ケイ様・・・婚礼の時は嫌でもつけていただきますからね。」

メリッサはにっこり微笑んで言う。



慧は口をへの字に曲げて鏡を睨んだ。

こうすると、まだ少年のような面影が残る。

メリッサに着せられたのはオフホワイトのパンツの上に

薄い水色のワンピースのような服だ。

金色と蒼の組みひものようなもので腰のところを結んでいる。

髪はまとめられてやはり金色と蒼の紐で美しく結われている。



「黒い御髪ですからどんな色もあいますねぇ。」

最後に飾りとして簪のような髪飾りを挿してメリッサは手を止めた。



「う・・・ん?私を弄って楽しいかなあ?」

慧はそう言って首を傾げた。



・・・ケイ様・・無自覚なんですね・・でも・・・私がなんとかします!!・・・

メリッサは、慧を見て妙な使命感を覚えるのであった。





ケイが自分の居間に行くとサイシュンが

「ケイ様、とても似合っているぜ。」と言い、アルも満足気に頷いた。



「サイシュンとアルは着替えないの?」

2人が普段着なのを見て慧は不思議そうにした。

「ああ。今日は人の城で茶だから我々は招かれていないのさ。」

アルが軽くそう言うと慧は残念そうな顔をした。



その時、ノックの音がしてエドワードが入ってきて

慧を連れて部屋を出て行った。





「大丈夫かな?」アルが不安そうに言うとサイシュンが微笑んでいった。



「ケイ様なら大丈夫だぞ。」

2人きりなので、サイシュンの言葉も戻っている。

「サイシュン、随分自信がありそうだな。」

「だって、考えても見て。ケイ様に一番影響を与えている銀の龍は?」

「ファルだろ?そりゃ。」

「ケイ様はファルに育てられたようなものなのだろう?

 なら、余裕・・余裕・・・。」

アルは、少し考えて言った。

「そうだよな・・。何だか大丈夫な気がしてきた。」

2人は、笑顔で毒のような言葉を吐くファルを思い出し身震いをした。





エドワードはティールームの近くに行くと心配そうに慧に言った。

「ケイ様。私がお供できるのはそこの扉までです。

 お一人で心細いかと存じますが

 大丈夫でしょうか?」

「エドワード、大丈夫だよ。

 今日は、花嫁候補だけのお茶会?」

「いえ。花嫁のお世話をする貴族の紹介もあります。

 それと、ケイ様くれぐれも自分から名乗ることはしないでくださいね。」



ナバラーンで自分の真の名を告げることは意味のあることだからだ。

その割にケイは自分の真の名を告げまくってはいるが・・・。



「わかった。じゃあ、楽しんでくるね。」

慧はにこっと微笑むとティールームに向かった。

その後ろ姿はしゃんと背筋が伸びて凛としていた。





ティールームに入ると既に数人の男と着飾った女が2人いた。

「どうぞ、こちらへ。」

慧は案内された席に優雅に腰掛けた。



その時、扉が開いて着飾った男が入って来た。

何人かを従えている。

良く見ると先ほどの女達の後ろにも控えている者が数人いる。

着飾った男が座ると、何人もの男が部屋に入ってきた。



1人の神官のような服装をした壮年の男が進み出て言った。

「この度の花嫁候補は4人でございます。

 ここで、それぞれの花嫁候補様を真名でお呼びするわけにも行きませんので

 呼び名をこちらで考えさせて戴きました。

 簡単な紹介を含めて発表させて戴きます。」



男は、まず最後に入って来た着飾った男のそばに進んで言った。

「貴方様の呼び名はロゼ様。

 白薔薇の意味でございます。

 サファード公爵の子で有らせられ純血の人であられます。」



次に着飾った黄色のドレスの女に近づいて言った。

「貴女様の呼び名はレラ様。

 黄薔薇の意味でございます。

 リード侯爵様の子で有らせられ純血の人であられます。」



今度は赤いドレスの女に近づいて言った。

「貴女様の呼び名はリセ様。

 ご存知の通り紅い薔薇の意味でございます。

 エメル公爵様の子で有らせられ純血の人であられます。」



最後に男が慧のそばに来て言った。

「貴方様の呼び名はカイ様。

 旅人を導く星の名でございます。

 白龍の当主リンエイ様に祝福された龍人であられます。」



「まあ。」リセはそう言って慧を睨んだ。

「龍人とは、野蛮な・・・。」ロゼがそう口走った。

「何でこの方だけ星の名前なの?」レラが非難するように言うと

男は口を開いた。



「人の呼び名は我々神官がつけることができますが

 龍人の呼び名はセントミリュナンテにて考えられたからでございます。」





「ふん。野蛮な龍が考えた名なのね。」レラが馬鹿にしたように言った。

3人はそれから可能な限り龍や龍人をなじった。



先ほどの、神官の男や数人の男も収拾がつかずに困惑しているようである。



その中で慧はぷっと噴出し、クスクスと笑い出した。

「そこの龍人?何を笑っているんだ?」

ロゼが怒鳴って言った。




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