眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-10-

本文へジャンプ



エドワードは目の前に座っている2人の幼馴染の顔を見て

一昨日、慧の言った言葉を思い出していた。



「ケイ様。明日から2日休暇を戴くことになりましたので

 何かとご不便になると思いますがよろしくお願いいたします。」

慧が寝る前に薬湯を持っていったエドワードはそう切り出した。


「エドワード、私のことは気にせずにゆっくり休んで来てね。

 そして、エドワードが必要だと思うときは私に許可なくても

 私のこと明かしても良いよ。」

「ケイ様・・・本当に?」

「うん。この城の中は何かと人目があるけれど

 城の外なら良いと思うんだ。特に大事な幼馴染にはね。」

慧はそう言いながら目を細めて笑った。




・・・ケイ様は予測なさっていたんだな。・・・

自宅に戻ったエドワードは次の日ライナス家に呼ばれ

今、ユーリとキースの幼馴染として一緒に茶を飲んでいるのだった。



「エド・・正直私達は混乱している。」

ユーリがそう切り出した。


「カイ様が良い人で聡明な方だとはわかるのだけど

 あの洞察力や自信はどこからくるのだろう。」

キースが続けて言った。

ユーリとキースは、慧を花嫁の呼び名で呼んでいる。

「ユーリ、キース、私に何を聞こうとしているのですか?」

エドワードが慎重に言った。

「カイ様のことは私達はよくわからない。

 でも、エドのことはよくわかる。

 エドは、カイ様のことをどう思っているのかな?」


「キース、私はカイ様に忠誠を誓いました。

 一生お側にいさせてほしいと思っております。」

「エド・・それはなんで?じゃあ、城を離れると思っているの?」

キースが驚いた顔で言った。

「ええ。そのつもりでした。ちなみに一緒に働いている

 メリッサもテリオも同じです。」


「確かにカリスマ性はあるかもしれないが一当主に祝福されているだけの

 龍人なんだぞ。ナバラデルトを出てまでも忠誠を尽くそうと考える何があるのだ?」

「ユーリ、あなたは根本的に間違っている。

 人を動かすのは地位ではない。

 その人の在り方や考え方が人を動かすのです。」


「つまり、カイ様はエドの心を動かしたわけだ。」

「ええ。少なくてもカイ様は私を利用しようと思わないです。」

エドワードがこう言うとユーリとキースは目を落とした。

2人はエドワードを城に勤めさせることによって

城の情報を仕入れようとしていたのだ。


「知っていた?」キースが言った。

「ええ。薄々気づいておりました。」エドワードがうなずいた。

「私達を蔑むか?」ユーリが言った。

「いいえ。今は、何も思っておりません。

 考えてみると、ライナス家が後ろ盾にたってくれたので

 城に勤めることができ、カイ様に会うことができたのですから。」


「ユーリ、これ以上・・エドを縛ることはやめよう。」

キースが顔をあげながら言った。

「ああ・・・・ああ・・。せめて幼馴染として

 ナバラデルトを離れてもエドが幸せになれることを願うことにしよう。」

ユーリも低く言った。



「ちょっと、待ってください。

 なぜ、私がナバラデルトを出るのが決定なのですか?」

エドワードが慌てて言った。




その時、召使が困惑気味に入って来て言った。

「あの・・エドワード様を呼んでほしいと少年2人が来ているのですが・・・。」

「私に?名前は?」

「取次ぎを頼んだ少年はテリオと申しておりました。」


召使が言うとエドワードは米神を押さえてユーリとキースに言った。

「紹介したいので、通してもらってよろしいですか?」

ユーリがうなずくと召使はあわてて部屋を出て行った。


エドワードが立ちあがってそわそわ入り口の方を見ると

泣きそうな顔の少年とにこにこ微笑んでいる少年が入ってきた。

エドワードは微笑んでいる少年に駆けよると肩に手を置いて言った。

「カイ様・・・サイシュン様達におっしゃってきたのですか?」

少年はのんびりした口調で言った。

「大丈夫。また、書置き残してきたから。」



その声は間違いなく慧の声でユーリとキースは赤茶色の髪に茶色の目の

少年を驚いたように凝視した。



  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.