眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-17-

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「お待ちください!!」

城の衛兵の紅龍が裸足で駆けている慧を追いかけながら

言ったが、慧の耳にそんな言葉は聞こえなかった。

慧は、扉を何個も開け階段を下り

ひたすらリューゼに向かって走った。

そして、大きな広間のような部屋を抜け

金色の扉のノブを回すと静かにその部屋に入っていった。




部屋に入った慧は思わず足を止め目を見開いた。

目の前には美しい金色の龍が眠っていた。

「リューゼ?」

龍は一番大きいとされている紅龍よりも大きく

金色に光輝いている。



「綺麗・・・。」

慧は龍のそばに行って美しい鱗を撫でた。

リューゼは静かに眠っている。

「ようやく、ここに来たよ。」

慧はそう言ってリューゼにもたれ、目を閉じた。

心から安心したのだ。







慧の異変に気づいた銀の龍がそして衛兵から

慧が龍王の間に入ったことを聞いた当主達が

集まり、リュークの先導で金色の扉の前の

大きな広間に集まった。

「ケイが入ったのはその扉だ。」

リュークは金色の扉を指差して言った。


ガイとアルがその扉に近づこうとするのをリュークが制して言った。

「この扉に触ると大変なことになる。」

リュークはそう言いながら懐から筆を取り出すと

扉の方に投げた。

すると、その筆が扉に触れたところで蒸発する。

「こ・・これは?」真っ青な顔でガイが聞いた。


「これが、龍王様の結界だ。ケイは金の龍人だから中に入れたのだろう。」

「じゃあ、私達ができることは、何も無いのですね。」

ファルがポツリと言って金の扉を見つめた。

「ただ、こちらの声は龍王の間に聞こえる。

 それで、私は眠っている龍王に出来事を伝えていたのだ。」


「じゃあ、できることあるよ。」

こういう時にはあまり口を開かないルイが言った。

「皆で歌を歌うんだ。ほら、あの時は全部の龍がそろってなかったでしょ?

 だから、こんどこそ、完成させよう。

 龍王様とケイの為のナバラーンの歌を。」

「確かに黙って待っているより良いかもしれない。

 私は楽団を連れてきましょう。」

ルネが部屋を出て行った。

「私は、人の部分の歌をユナに頼みに行きます。」

ニコライもそう言いながら部屋を出て行き、

次々と皆が用意をするために部屋を出て行った。







・・・・ナバラーン・・・・ナバラーン・・・・


・・・・幸せの地。(ナバラーン)・・・・


「歌・・・・。」

慧は、そう呟いて目を開けた。

美しい歌声が聞こえる。

「あっ・・・この歌は・・・。

 ナバラーンの歌だ。

 あの歌・・・。」


・・・・ナバラーンに祝福を。(愛を)・・・・


・・・・ナバラーンに幸せを(祝福を)・・・・


・・・・ナバラーンに愛を。(幸せを)・・・・



慧は金の龍の頭のところまで歩いて行くと

龍の頭に額をつけて言った。

「リューゼ、起きて。

 これからは、ずっとずっと一緒だよ。」

そう言うと、慧は龍の口の端にキスを落とした。

まばゆいばかりの光が慧を包み

龍の前足が慧を包み込むように抱きあげた。


「リューゼ!!もう一度キスしたい。」

慧は嬉しそうに微笑んで手を伸ばし、

再び口の端にキスをした。

すると、龍の目が開いて金色に光る目が

慧を見据えた。



慧はボロボロ泣きながら龍の頭にしがみついて

「龍の姿でも貴方に会えたんだ。

 長かった。」

と言いながら、何度もキスをした。

金色の光が龍と慧を優しく包むと

龍は一瞬で人型になり、慧の唇を奪って言った。

「慧、もう離さない。ありがとう。」



会ったら、何て言おうか。

いつもいつも会った時の事を考えていた。

でも、慧の頭には何も浮かばなかった。

慧は涙を流しながら、只々、そのあたたかい存在を確かめるように

リューゼに抱きついていた。




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