眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-16-

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「メリッサ、ケイ様はまだ?」

ユナは、メリッサからハーブティを受け取りながら言った。

「たぶん、じきにいらっしゃいますよ。

 さっきまで、会議をなさっておりましたから。」



「そっか・・・。」

ユナは熱いハーブティをゆっくりと飲み始めた。

ユナが慧に助けられてから数日が過ぎた。

慧はユナを自分の与えられた部屋の一室に連れて行き

ずっと、ユナのそばにいてくれた。



昼は、ニコライとルイがユナのそばにいてくれる。

ニコライは、ユナに色々な話をしてくれ、

ルイは、珍しい楽器を奏でてくれたり歌を歌ってくれた。

夜中に寂しくて泣いているときは

不思議と必ず慧が来て慰めてくれ、眠るまでそばにいてくれた。

ユナは誰かに守られているという安心感を初めて感じた。





「ユナ・・・今日も元気にしていた?」

扉が開いて部屋着を着た慧が入って来た。

ユナは嬉しそうに「うん。今日は昼歴史の勉強をしたんだ。」

と今日あったことを慧に話した。



慧は忙しくて、なかなかユナに会えないけれど

寝る前のひと時はこうしてユナの部屋に寄ってくれるのだ。

いつもは話をすると挨拶をして部屋を後にする慧が

今夜は珍しく椅子に座ったままだ。

表情も硬い。


不安になったユナは勇気をだして

慧に「どうしたの?」と聞いた。

「ユナ、私はね、人の城を変えようと動いているんだ。

 それで、一番良い方法を模索して明日決行するんだ。」


「そうなんだ。」

「明日の朝、今の人の城の貴族の大半は逮捕されるはずだよ。

 そして、その中にはユナのお父さんも含まれている。」


「う・・ん。逮捕って?」

「ナバラデルトの人の社会には法律があるけれど

 その上に中央法と呼ばれる法律があるんだ。

 その法律の拘束力は、大きくて明日逮捕される貴族は

 白龍の国リャオテイに護送されて裁判にかけられると

 思うんだ。」

「父様の罪は重いんだね。」


慧は頷きながら言った。

「証拠を消しているようで消してなかったからね。

 今の法律では、死刑はないけれど、恐らくもうユナと

 会うことはできないと思う。

 そして、ユナ・・・。

 たぶん、身分は剥奪、財産は没収されると思う。

 ごめんね。帰る家つぶしちゃって。」

慧はすごく悲しそうに言った。



ユナは、思わず慧を抱きしめて言った。

「ケイ・・・。何でそんなに優しいの?

 私達、貴族は今までいつ殺されるか

 とても不安だったんだ。

 だから、父も自分の手を血で濡らしたんだ。

 いつだってやり直せるって言ってくれたのケイじゃないか。

 私のことで、そんな悲しい顔しないで。」



「ユナ・・・。」

「皆・・・これで、安心して暮らせるんだね。」

ユナはそう言って慧にしがみついて泣いた。





次の日、慧の言った通り、人の城の多くの貴族が逮捕され

リャオテイに護送された。

それは、とても速やかに静かに行われた為、

逮捕された者の家族ですら事実を知るまで数日かかった。



ユーリとキースは、慧と約束したとおり通常通り業務を遂行し

貴族の屋敷に勤めていた者にも様々な職を紹介することにより

混乱も最小限で食い止めたようだ。

むしろ混乱したのは父親が逮捕された花嫁候補で、

ユナは、レラとリセを説得して共同で花嫁候補の辞意を表明した。

レラとリセは城を後にしたが、ユナは自ら身分を捨て

慧に忠誠を誓ったので城に残りエドワードの下で働きながら

勉強をしている。





夜、慧は外を見ながらいつもの歌を歌っていた。


   ナバラーンで愛しいもの。それは全て。         

   全てが愛しい君が創りしもの。              

   全てが愛しい君が愛するもの。              

   ナバラーンで愛しい人。それはナバラーンの人達。   

   そのなかでも一番愛しき人は眠る君。           

   眠る君へ届いてほしい。                  

   この愛する地ナバラーンの歌を・・・。  



その時、優しい声が聞こえた。

「慧・・・・慧・・・。」

慧はそっと目を閉じた。

金の龍の力か、慧には城中を心で見ることができる。

その優しい呼び声に意識を集中させると

眠っているリューゼの顔が見えた。

「リューゼが呼んでいる。」

慧はそう呟き、裸足のまま廊下に出ると

そのまま駆け出した。



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