眠る君へ捧げる調べ

       第10章 君ノ眠ル地ナバラーン〜王宮編〜-12-

本文へジャンプ




「さ〜〜て、お許しも戴いたしちゃっちゃと呼び寄せようかなあ♪」

エドワードとユーリとキースは慧が何をするのかわからなそうに

首を傾げた。


慧は、まずブツブツと呪文を言うとその瞬間

部屋の中に強固な結界ができた。

エドワードは何を察して部屋のカーテンを引きはじめ

ユーリとキースもそれに従った。

慧が目を閉じると金色の光が慧を覆う。

「銀の龍達よ。来て。」


次の瞬間慧の周りにはお馴染みの銀の龍が立っていて、

皆に慧は抱きしめられた。

「ごめん。アル、サイシュン。」

ばつが悪そうに慧が謝ると2人は微笑んで首を振った。

「やっぱり、皆が周りにいると嬉しいね。」

慧がそう言って周りを見渡すと皆がすごく嬉しそうな顔をした。

銀の龍にとって花嫁にそう言われることは至上の喜びなのだ。

エドワードとユーリとキースは目の前で起こった出来事に頭がついていかずに

呆然としていた。




気を取り直したユーリがお茶の用意を召使に命じ、

しばらくすると美味しそうな御菓子や熱々のお茶がテーブルに並んだ。

慧は静かに話し始めた。

ナバラデルトは、今2つの地区に分けられている。

龍の地区と人の地区だ。龍の方は人に対してあまり悪い感情はもっていない。

しかし、人の方は龍に対して怖いものだと感じている。

そして、人の城には貴族制度があることも話した。



龍の社会にも階級制度は存在する。

しかし、龍の階級制度はその階級にふさわしい仕事をしないと

返上しなければならない。

なので、銀の龍達は幼いときから当主の子ルーとして公的にも生活をしてきた。

だからこそ、他の龍がルーという位に敬意をあらわすのだ。



「私が花嫁になったら人の城は混乱すると思う。

 混乱が人の城だけなら良いけれど、それによって

 人の居住区の皆も混乱すると困るんだ。

 あの方は、ナバラーンの民を愛している。

 そして、ナバラーンの民は龍だけではなくて人もそうなんだ。」

慧はそう言って話を終えた。



「そうですね。まず、ここには私、ルイ、ニコライがお世話になりましょう。

 そして、サイシュン。アルは、ケイと一緒にいて下さい。

 できるだけそばにいて下さいね。

 ジークもサイシュンとアルと共にいて下さい。

 ケイが結界張ったり気を配ると疲れますからね。

 アハドとジャンは龍の居住地区の方で活動してください。

 龍の中でも私腹肥やしている者がきっといるはずです。

 そして、ケイ・・。」

ファルは慧を招き寄せると子供にするみたいに膝の上に抱えあげると

優しく頭をぽんぽんと叩きながら言った。


「少し・・このまま休みなさい。

 ケイは体が丈夫なわけではないのですからね・・・。」

そう言いながら癒しの魔法を唱えると慧はファルの腕の中で

すやすやと眠り始めた。



「最近、お昼寝もあまりしておりませんでしたし・・。」

サイシュンが心配そうに言うとファルは大丈夫だと小さな声で言うと

エドワード、ユーリ、キースの方を見て微笑んで言った。

「一緒にお茶の続きしましょう。

 いろいろとこちらのこと教えてくださいね。」

ユーリは小さく頷き、キースは、皆のカップにもう1度お茶を注ぎいれた。




こうしてファル・ニコライ・ルイは人の居住区で住むことになった。

ファルは人の居住区の病院に行き、アドバイザーとして助言するつもりだったが

人の医術では対応できない患者を魔術で治し、ナバラデルトのあちこちから

医者に見離された患者が集まってくるようになった。



ニコライは、ナバラデルトの教育機関を見て歩き

時には教壇にも立っている。

週末は教会で神官として神事を行っているため、

初めは龍だと警戒していた人達からも尊敬されるようになった。



ルイは、街角や小さな集会所でコンサートを開き、

その美しい歌声にファンクラブまでできた。




一方、アハドとジャンは、龍の居住区で

かなり信頼を得ているようだ。


慧の周りは何事もなく数ヶ月が過ぎ、

龍王が目覚めるまで1ヶ月をきった。

今までは人の城での儀式が主だった為、

有力貴族の発言で、慧に声がかかることも無かったのだが

これからは、龍王の城に移り、龍が参加して

儀式が行われるので、慧も一緒に移ることとなった。



引越しの当日、他の花嫁候補は、

たくさんの召使と道具に囲まれて人の居住区、龍の居住区を馬車で

ねり歩き、龍王の城に入った。

人々はその華々しさに溜息をついた。



最後に慧の馬車が通った。

慧の馬車はとても質素で、人々は本当に花嫁候補の馬車なのか

首を傾げた。

しかし、人の居住区の中心にある広場で

ファル・ニコライ・ルイが慧の馬車に乗り、慧の手に親愛のキスをすると

人々はどよめいた。

「きっと花嫁になってくださいませ〜〜。」

そんな言葉と小さな花束がひっきりなしに慧の馬車に投げ込まれた。





  BACK  NEXT 

 Copyright(c) 2007-2009 Jua Kagami all rights reserved.