眠る君へ捧げる調べ

       第1章 君ヲアイシタ記憶(現世編)−3−

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「龍星さん、夕食できましたよ。」慧は、龍星の書斎の前で声をかけた。

「ああ。もうそんな時間か・・。もう少しで行くよ。」

龍星の声が聞こえた。


慧は、台所に行くと椀に味噌汁を注ぎご飯を盛る。

それをダイニングのテーブルに運んだときに龍星が顔を出した。

「今日も美味しそうだな。」テーブルについて手を合わせていただきますと呟くと

箸をもって食べだす。

慧もいただきますと言うと、焼き魚を食べる。



2人で暮らして、慧は戸惑うことも多かったが龍星と暮らすことが楽しくなっていた。

龍星は、とても博識でいろいろなことを慧に話してくれる。

それは押し付けではなくて気持ちがよい。

慧は、いつの間にか龍星と過ごす時間を楽しみにするようになっていた。

そして、それと同時にこれ以上龍星に甘えてはいけないという感情もあった。




いつものように和やかな夕食の後食洗機に皿を入れ、居間のソファーに座る。

龍星は、そのソファーに座り慧は斜め前の床に座る。



「実はね。ファンタジー小説書こうと思っているんだけど

 その世界観はできているんだけどそれ以上何も決めてないんだ。

 慧、話聞いてくれる?」

慧はマグカップに入ったカフェオレを一口飲むと

「いいよ。龍星さん。どんな世界観なの?」


「その世界は龍族と人間がいる。その両方の種族は決して仲が良くない。

 しかし、その世界は龍の王が作った世界だから人は龍を受け入れている。

 龍族は人型と龍に変化可能だから、人のことを下に見ているそんな世界。」

「うん。なんとなくわかる。」

「登場人物の1人は龍の王様。龍の王様は自分の伴侶を見つけるために眠りにつくんだ。」

「王様なのに眠りにつくの?」

「ああ。眠り姫のように眠っている間に異世界に行って本当に心を通じる人を探そうとしたんだ。」

「そういう設定なんだ。」

「それで、恋に落ちてその恋人が異世界に行くんだ。」

「なるほど、そしてその恋人が王様にキスをして王様が目覚めるという話なんだ。」

「まあな。でもその恋人がどのようにその世界で過ごすのかまだ考えていないんだ。」

「じゃあ、待っている龍の王様の方はどうなの?」

「こちらはかなり決まっているんだ。なあ、これから少しずつこの作品の話聞いて欲しいんだけどいいか?」

「いいよ。」慧は気軽に答えた。



「でも・・いいなあ。異世界までも追っていくほど好きな相手なんて・・。」

「慧にはいないのか?」

「俺はだめ。心のどこかで拒絶する俺がいるから。」

「そんなの寂しいよ。でも心のどこかでそれを求める慧もいるんだろう。」


慧は驚いたように龍星を見た。

「龍星さん・・・」

「俺に頭を撫でられるの好きだろう?」

「うん。」慧は頷いた。

「俺は慧の頭を撫でるの好きだよ。」

龍星はそう言いながら優しく慧の頭を撫でてくれる。

慧は嬉しそうに猫のように目を細めた。



龍星の手は気持ちいい。この手に甘えたくなってしまう。

でもそれではいけないと慧は思う。


龍星はまじめな顔をして慧に言った。

「俺は慧のこと大好きだよ。恋人にしたいと思っている。」

「俺は男だよ。それでも・・・?」

「なんだい?慧。言ってごらん。」

「それでも・・・俺は・・それ以上を望んで良いの?」

「慧・・・。良いんだ。俺が慧を好きだというのはこういう意味だよ。」




龍星の整った顔が近づいてくる。

慧はそっと目を閉じた。

龍星の唇が優しく慧の唇に合わさる。

その唇は貪欲になり慧の全身の力が抜ける。



唇がピチャピチャと音をたてたかと思うと慧の歯茎を龍星の舌がなめ回す。

「あ・・・・っ。」

慧の口から喘ぎが漏れる。

慧は龍星のシャツを知らず知らずのうちに握っていた。

キスは深くなっていく。

慧は頭の先から足の先までしびれる様な想いに駆られる。

そして、自然に涙が流れる。




「好きな気持ちから、愛しいという気持ちに変えてはくれないか?」

龍星は、唇を離すとそう言った。

慧は何度も頷くばかりだ。

「少しずつ知り合っていこう。人と人として重なり合っていこう。」

龍星はそう言って慧を優しく抱きしめた。




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