タクシーの窓から闇だけの外を見る。
「降って来たな・・・。」
岡島は、そう呟いた。
・・・真実・・寂しくて1人で泣いているだろうな・・・。
岡島はなんとなくそう思った。
社運をかけた新プロジェクト発表の次の日から、部下である川島真実が
会社に来なくなった。
岡島は、先輩の特権を活かして川島のアパートに行ってみたが
誰もいる様子は無かった。
念の為管理人を探し、部屋の鍵を開けてもらったがそこには誰もいなかった。
バーで聞いていた携帯の番号も繋がらない。
「おかしい・・。」
その夜岡島は、誰もいないのを確かめ川島のパソコンに向うと
自分の最大限のスキルを活かし、パソコン内に侵入した。
「さすがにメールは消去されているな。」
そう呟きながらメールの宛先をチェックした。
そして、今度は最近頻繁にメールしていると割りだした
東条円のパソコンに侵入した。
東条円はセキュリティの面などは全然考えていないようで
メールは全てそのままであった。
「これは・・・。」
川島からのメールの他にも自分の兄に宛てたメールなどがあった。
順序良く見ていると川島は東条円に脅されて新しいプロジェクトのデータを要求されていたようだ。
しかし、川島の添付ファイルを見ると没にした案件を
送っていたようだ。
そして、今朝円が兄宛に送ったメールを読んだ岡島は固まった。
『兄様
兄様のだあい好きな人円がゲットしたのよ〜〜。
ほら、お義姉様の前に付き合っていた・か・れ・し。
会いたいならお小遣いなんかほしいな〜〜なんてvv
よろしこ〜vv
円』
岡島は立ちあがり、データを保存すると、
夜も遅かったがある人の携帯を鳴らした。
頭の中はとにかく川島を助けることしかなかった。
数時間後、長身の男が東条ソフトの岡島の部屋を訪れた。
「西條先輩・・・。こんな真夜中に申し訳ありません。」
岡島は、深々と頭を下げた。
「岡島、構わない。東条家に関わっている話なら、なおさら
話を聞かせてほしい。」
その男は表情を変えることなく椅子に座って言った。
男は、西條龍哉と言い、東条グループ総帥の秘書室長をしていて
東条家とは親密な付き合いをしていることを岡島は知っていた。
岡島は順序だてて、話をはじめた。
西條は冷静にメモを取りながら聞き、適切な質問を岡島にする。
話を聞き終わると西條は口を開いた。
「話はわかった。この件については私が責任を持って調べる。
岡島は、待っていろ。」
岡島の頬を涙がつたった。
「先輩・・俺が・・もっと早く俺・・・言っていれば・・。」
「岡島。例え話をしていても発展はない。
負けたら、どう攻めるか。
それが、私の学んだ剣の道だが・・・。」
そうだった。
西條と岡島は、同じ道場で剣道を習っていた。
西條は物凄く強くその道場の花形だった。
しかし、その影で地道な努力をしていることを岡島は知っており尊敬していた。
「先輩・・。」
「岡島。川島君は私の力で助け出す。でも普通に考えていても
精神的なダメージは大きいと思うがね・・・。
それを支えるのは、誰かね。それでは、失礼する。」
西條は、そう言うと部屋を出て行った。
岡島は手をぎゅっと握り締め、祈ったことの無い神に必死で祈った。
「真実・・今度・・会った時には・・・。」
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