君と僕らの三重奏 番外編 

〜明日に見た小さな灯火〜 −2−

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川島真実は、携帯を小さく握り締めていた。

「祐樹・・寂しい・・・。」

真実は、1人膝を抱えて部屋の壁に背を預けていた。

涙が自然に頬をつたう。







真実は小さな時からゲイである自分を意識していた。

元々女の子と間違われるほどの童顔だったので

高校の時、男に告白されてからずっと恋人は男だった。

一番長くつきあったのは、東条正義という男で真実も勤めている

東条ソフトの関連会社の社長の息子だった。

正義とは大学2年の時から最近までつきあっていたが最近別れた。

もっと悲しいかと思っていたが案外そうでもなかった。

それは、別れ話を切り出された時、隣に座っていた祐樹という男が

慰めてくれたからだ。

今は金曜日の夜がとても楽しみになった。

祐樹はとても魅力的な男だった。

それは整った外見だけでなく、何でも話しを聞いてくれ

適切なアドバイスをしてくる。

仕事面でも真実は充実していた。

プロジェクトメインでやっているプログラマー岡島は

無愛想だが、実力主義の男だったので

仕事を頑張れば頑張った分、重要な仕事を回してくれるようになった。

そして、実はきちんと順を追って聞くときちんと仕事を教えてくれた。

真実は自分の仕事に誇りを持ちプロジェクトが終わる頃には

岡島のことを尊敬するようになっていた。

しかし、まだ真実はバーで会っている祐樹と岡島が同一人物であることに気がつかなかった。


状況が悪くなったのは、岡島の下について1年がたった時だった。

新入社員で、綺麗な女が東条ソフトに入ってきた。

名前を東条円(まどか)と言い、明るく他の先輩に可愛がられる女だった。

しかし、岡島は女どころか人には興味がないような性格だったし、

真実も女の人がどちらかと言うと苦手だったのでなるべく関わらないようにしていた。

その頃、仕事もまた社運をかけたようなプロジェクトを岡島が任されサブに真実も

指名されていた。岡島という男は、いつも無精ひげを生やしビン底メガネをかけ

背を猫背にしている男で「キモ男」と陰口をたたかれ、それ以上に無愛想だったので、

真実を指名されても特に誰もねたんだりはしなかった。

仕事が大変で徹夜も多かったが真実は今の生活に満足していた。

しかし、突然ある日の昼休み東条円に会社の近くの喫茶店に呼び出された。

「わたし・・すごいこと知っているんですよ。川島先輩ってゲイなんですよね。」

円は悪戯そうににっこり笑った。

「えっ。」

「わたし、ほら、和義の妹なんですよ。兄の部屋にこんなのあったんだけど〜〜ぉ。」

そう言うと円はテーブルに正義が真実を抱きしめて一緒に映っている写真をのせた。

「こ・・・これは・・。」

「兄に聞いたら、あなたキモ男のこと好きなんだって?」

「そんな・・・」

「そんなことないと言わせないわ。ふふふっ。」

円はにっこりと微笑みながら言った。

「何・・何が目的・・・だ。」

「え〜〜〜・・すごい簡単なこと・・・。今のプロジェクトの情報流して。」

「何だって・・・。」

「私ねぇ。今好きな人いるのぉ。その人、御影ソフトの人だから情報欲しいの。」

御影ソフトというのは東条ソフトのライバル会社だ。

「そんな・・ことできない・・。」

「じゃあ・・いいんだぁ・・。早速、キモ男にメール流そうかなぁ。」

円は小首を傾げて言った。



・・・その数ヵ月後・・・

社運を掛けたプログラムは無事世の中にでた。

本来真面目な真実は、偽の情報を円に流した。

しかし、ここ数ヶ月で真実はぐっと痩せた。

塞ぎこんでバーにも行けない日が続いた。

無愛想な岡島もさすがに心配して休むように何回も言ってくれたが

真実は休むことは無かった。

しかし、その日真実は姿を消した。


 
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