君と僕らの三重奏 番外編 

〜明日に見た小さな灯火〜 −1−

本文へジャンプ



東条ソフト。プログラマーの岡島祐樹は画面を見ながら溜息をついた。

時計を見あげると2:10。

「こんな時間か・・?」

おもむろに携帯を取り出してメールを打つ。


・・・真実?もう寝ているのかな・・今日は帰れない。ごめんな。・・・


すぐにメールが帰ってくる。

・・・祐樹、無理しないで。・・・


そのメールを見て岡島はパソコンの電源を落とし、廊下に出た。








真実と会ったのは、3年前だ。

当時岡島は大きなプロジェクトを抱えていた。

真実はそのプロジェクトに岡島のサブとして配属されてきた。

第一印象は、目の大きな童顔な男だなあということだった。

岡島は元々ゲイだった。

好きな人は全て男。女よりも男についつい目が行く。


ぶっきらぼうな態度に、無精ひげの岡島は仕事はできるが

オタクだと思われていた。実際それで良いと岡島も思っていたが・・・。

岡島の唯一の楽しみは金曜日の夜、その手のバーで静かに呑むことだった。


無精ひげをそりビン底のメガネをはずしねこ背をやめると

岡島は実はかっこの良い部類の男だった。


そして、金曜日の夜は静かにバーで呑み、

そこで知り合った男と話があえば、一晩の関係になる。

そして帰ってから髭を剃らなければ月曜日にはまた無精ひげの岡島に戻るのだ。

ある金曜日の夜も岡島はいつものバーでグラスを傾けていた。



隣に2人の男が座る。

「真実・・・・すまない・・・。」

岡島は内心まずいところに座ったと思った。

隣の男は別れ話を切り出しているのだ。



「その・・・上司に見合い話を切り出されて見合いしたのだが・・・

 どうしても、断れなくて・・・。」


・・・なんて優柔不断な男だ・・・。


岡島はいらいらしたように煙草をトントンとテーブルに叩いた。

「それでも、俺はお前だけが好きなんだ。」


・・・・うわぁ。身勝手・・・。


「俺は、大学2年の時から東条先輩のことが好きでした。

 でも・・俺も好きな人がいるんです。」

岡島はここでこの連れの男の声が聞いた声だと思った。


岡島の隣の男がプルプル震える。


・・・こういう男に限ってプライド高いんだよなあ。ありえねー。・・・


「祐樹・・・誰だ?そいつは?」

「会社で今一緒に仕事をしている先輩です。」

「お前、浮気してたのか?」


・・・あ〜〜〜。自分のこと棚にあげてるよ・・・。


「いえ。俺が勝手に片思いだけですよ。」

「おまえは、そんな奴だよな。じゃあ、俺はこれで。

 もう、会うこともないだろう。」

男は万札をテーブルに置くと、バーの外に出て行った。


「すみません。」連れの男は岡島にそう言うと苦笑した。


・・・こいつ・・・川島真実?・・・

川島は、自分には気がついていないようだ。

最近自分のサブに入った後輩を岡島は見つめて言った。

「飲みなおさないか?」

川島は、コクリと頷くと隣に座った。

「馬鹿ですね・・俺・・・わかっていたんです。

 あの人の心が離れていっているのを。

 だから、つい嘘をついてしまって。」

「嘘?」

コクリと川島は頷きながらグッと前にあるカクテルのグラスを空けた。

「ええ。俺の会社の先輩に片思いだなんて・・・

 たしかに俺の先輩は凄い人です。」

「凄い人なんだ。」

「ええ。見た目は全然なんですが、仕事はすごく完璧で・・

 一緒に仕事をしていると先輩の凄さがわかります。」

「そ・・うか・・・」


・・・・俺はそう見られていたのか・・・・


「でも、本当に好きだったのは・・あの人だけでした。」

川島の頬を透明な涙がつたった。

「そうか・・・。」






「そろそろ閉店か・・。」

岡島は自分のタグ・ホイヤーの腕時計を見ながら言った。


「すみません。俺真実と言います。貴方は・・・。」

「俺は祐樹と呼んでくれ。俺は、いつもこの店で金曜日の夜呑んでいるから

 また来ると良い。」



これが、岡島祐樹が川島真実との本当の出会いだった。

 
     NEXT 

 Copyright(c) 2007-2010 Jua Kagami all rights reserved.