君と僕らの三重奏 番外編 

〜永久に伴に・・・〜 −2−

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「まあ、取り合えずキース。よろしく。」

キースは、目の前の慎吾をあきれたように見つめた。

目の前の慎吾は、16歳になり少し背も伸びていた。

TOEFLのスコアもきっちり620を出したらしい。

春に慎吾からホームステイすると電話が来た時には信じられなかった。

今は、台所の棚を開けている。

「キース・・信じられない。何だこの缶詰とインスタントの山は?」

「あ〜〜。ほら、仕事忙しいから・・。」キースが口ごもる。

仕事も忙しいが研究をすると寝食を忘れてしまうのだ。

「医者の不養生ってこのことだったのか?」慎吾はどこか怒り口調だ。

「あ〜〜〜。慎吾?」キースは口ごもる。

「あんた、天才だって言われているけど莫迦じゃねぇ?」



キースは驚いた顔で慎吾を見た。莫迦と言われたのは初めてだ。

「あんた、どんな顔で普段いるかわかるか?眉間に皺寄せて

 全然楽しそうじゃねえ。あんたほどの頭があるんだったら

 別に転職したらいいじゃねぇか?」

「転職・・とは考えなかったな・・。」

「俺はあんたのこと知らないけど、今のままじゃあんたこのままの人生だぜ。

 それでいいのか?自分の為に生きろよ。」

この言葉はキースにとって新鮮だった。

「自分の為に生きるなんて考えたこともなかったし、言われたことも無かった。」

「と・・にかく!明日からは、俺が飯作ってやる。

 どうせなら、お前も休み取れよ!!

 俺が飯の作り方教えてやる。

 そういうことで、まずは買出しだ。キース車出せよ。」

慎吾はそう言うとにかっと笑った。



慎吾のご飯はとても美味しかった。

毎日、キースの弁当まで作ってくれ、夕食は一緒に作るのが習慣となった。

キースは、一週間で仕事を整理させそれから二週間休みを取った。

そこで、二人はキャンピングカーを借り、気侭にドライブに出かけた。

キースに取って慎吾は付き合いやすい人間だった。

慎吾は、キースの才能を1つの個性としか考えていなかった。

それを評価はしているようだが、1人の人として接してくれた。



ある日の夕暮れ、小さな町に入ると街のはずれで車がガードレールにぶつかっていた。

その中には、母親がいて血まみれの娘を抱えて泣いていた。

キースと慎吾はキャンピングカーから降りて、その車に駆け寄った。

「どうしたのですか?」

母親は泣きながら答えた。

「事故にあって、夫が街に歩いて助けを呼びに言ったのですが・・娘が・・・。」

「私は、医者です。娘さんを見せて下さい。」

母親は、小さな声で言った。

「お医者さんに見せるお金・・持ってないのです。」

キースはにっこり微笑んで言った。

「いいのですよ。ほら、見せなさい。」

キースは、母親から娘を抱き上げるとキャンピングカーに運び、横たえ、慎吾に

お湯を沸かすように言い、自分の道具と薬箱を持ってきた。

「慎吾・・・。この子はここで手術しなければいけない。

 だから、君はあの母親の話相手にでもなっていてくれ。」

慎吾は、その言葉のとおり毛布を持つと外に出て母親に優しく話しかけた。

慎吾はキースがどんなに優秀な医師か母親に話し、少し安心させた。

「この近くの街には、お医者様がおりません。

 だから、あの子は死ぬと思っていました。

 去年は大不作で、私達はとても貧しいのです。」

母親が、ぽつりぽつりと話し始めた頃に遠くから2台の車が来た。

それには、父親と警察官が乗っていた。

慎吾が2人にキースが手術していることを説明すると、皆はそのまま待つことにした。

数時間後、キースが車から降りて来て、

「成功しましたよ。お嬢さんは大丈夫です。」

と言うと、母親は泣きながらキースにお礼を言い、是非家に来てほしいと言った。

キースはその招待を受けた。

次の朝、お金を払えないからせめてと小麦粉や干しトウモロコシを貰い二人は

その家を後にした。

「私は、昨夜ほど自分がこの職業で良かったと思ったよ。

 そして、これからやりたいことも見つけた。

 慎吾、お前のおかげだ。」

そうキースは微笑んだ。

「キース、昨夜はすごくかっこよかったよ。」

慎吾はそう言いながらキースの頬にキスをした。

キースは柄にもなく真っ赤になった。

慎吾も真っ赤になる。

二人は顔を見合わせて笑った。

こうして、楽しい休暇が過ぎ慎吾が帰る日が近づいてきた。


 
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